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Loose Leaf Room(2)

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短編小説集です。1話で完結するものを中心に入れています
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記事一覧

【短編小説】だるまさんがころんだ

【短編小説】だるまさんがころんだ

だるまさんがー…ころんだ!

あらら…全く動かないや…。
キミは本当にこの遊びが上手いね。

じゃー…もっかい。
だーるーまーさんがー……こ、ろ…んだっ!!

おお。また動かない…流石だねぇ。
でもさっきから一歩も進んでないじゃん。それじゃあゲームは終わらないよ?

ほらほらーもっとエンジョイしよう!せっかくクライマックスなんだから、お互い楽しまなきゃ損でしょ?

死んだ振りして伏せたままじゃあ、

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【短編小説】if

【短編小説】if

ちょっと訊きたいんだけどさ。
「なにー?」

もし僕に、他に気になる人が出来たらどうする?
「出来たの?」
いや。もしもだってば。

「ふぅん…?」
で、どうする?

「まず率直な感想として、有り得ないね」
そんなこと言い始めたら、この話広がらないんですが。
というか有り得ない…って、どういうこと?

「だって実際そうじゃん。今のキミは私しか見えてないでしょ?」
いっそ羨ましいくらいの自信だね。

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【短編小説】ぐちゃ

【短編小説】ぐちゃ

ぐちゃ、ぐちゃ。

それは何かを踏んだような、潰したような音にも似ていた。

日を跨ぎ家を出てすぐ聞こえ始めたその音は、私の耳許から離れない。

そういえば今日は私の誕生日だったっけ。最近忙しくて忘れていた。

今頃彼は、私へのサプライズでも計画しているのかな。ここのところどことなくソワソワしていたし、そういうの隠すの下手なんだよなぁあの人は。
まぁ、そこが可愛くもあるけれどね。

ゆっくりと、け

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【短編小説】どうせ

【短編小説】どうせ

私は昔から、「どうせ」が口癖だった。

どうせ、私は落ちこぼれ。
どうせ、私は誰からも期待されていない。
どうせ、私は優秀で美人な妹の付け合わせ。

どうせ、どうせ、どうせ。

何をするにも妹には勝てなかった。
何かを達成しても、妹がすぐそれを越える。
両親を含めた周囲の人間は、いつも妹だけを褒め称えた。

どうせ、私は妹の陰でありお荷物。
例えばあの子が亡くなっても、その存在はきっとみんなの中に

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【短編小説】青蜂商店

【短編小説】青蜂商店

いらっしゃいませ、お嬢さん。
ご新規さんがここに辿り着いたのはいつ振りですかねぇ…。

ここは青蜂商店。青い蜂、と書いてセイホウと読ませます。
お客様が望むものを望む形で手に入れる為の品を扱う店、とでも言っておきましょうか。

お嬢さん、どうしても手に入れたい人がいるのでしょう?
隠さずとも分かります。えぇえぇ、そのお気持ちも痛い程分かりますとも…。
なので特別に、おまけしておきましょう。

さぁ

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【短編小説】幸せ

【短編小説】幸せ

嫌いな奴がいた。
周りから毒親だと言われてきたぼくの母にそっくりで、近くにいるだけで恐くもあった。

そんなアイツがぼくに告白してきたのが、今から4年程前だっただろうか。元々ノーと言えない性格でもあったが、面食らってOKしてしまった。

それが全ての始まりだった。

アイツはぼくの直属の上司だった。第一印象は『威圧的』。
実際その印象の通り、奴は周りの部下や気に入らない同僚、果ては性格の合わなそう

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【短編小説】対話

【短編小説】対話

「ヤギさんヤギさん、あなたはどうしてヤギさんなの?」

私のこの頭のことを仰っているのですか?ふふ、これはただの被り物…レプリカですよ。

「れぷ…?」
偽物、という意味です。私のこれは創られたものであり、お嬢さんの想像の産物なのです。

「そうなんだ!ヤギさんは何でも知ってるのね!!」
私は総てを知っている訳ではありません。例えばお嬢さんが今、何を考え何を望み何を視ているのか、それは私の知るとこ

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【短編小説】最期の10分間

【短編小説】最期の10分間

ボクは、同居人のあの男が嫌いだ。

一緒に外出している時はボクの呼びかけを無視して、他の奴らに作り笑いを向けてヘコヘコしているし、かと言ってひとたび家に帰ればボクに気持ち悪い笑顔で近付いてきてベタベタするし。

毎日同じご飯しかくれないし、おやつはたまにしか買ってこない。撫で方も無骨で雑で慣れていない感丸出しの癖に、ボクの呼びかけには普段の低い声からは想像出来ない程の裏声で応えて、これまた気持ち悪

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【短編小説】声

【短編小説】声

あの人の声が、私は好きだった。

心地よく響く低音の中にある、優しさの滲み出たあの声が。
あの人の活動を知った日から、学校終わりに家に直帰し、あの人の音声配信を聴くのがすっかり日課になっていた。

毎週平日の火曜と木曜の夜7時。それが、あの人の定期配信がある日時。

『こんばんは。今夜も一緒に素敵な夜を過ごしましょう』

始まった。私は今日も、あの人の画面越しの声にじっと耳を傾ける。
やっぱりいい

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【短編小説】いい子の呪い

【短編小説】いい子の呪い

ぼくは、常にいい子でいた。

最年長だから、弟妹達の指針であれ。
名家の生まれなのだから、聡明であれ。
生徒会長になったからには、優等生であれ。

でも、それを褒められたことは一度だってなかった。そう言ってきた人達にとって、ぼくがいい子なのは当然であり、ごく自然なことだったから。

だから、みんなに誘われて繁華街に初めて立ち寄ったことが両親に知られた時は大変だった。母は泣き喚いた挙句卒倒してしまう

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【短編小説】僕は

【短編小説】僕は

僕は、この世界が好きだ。
キミが存在していた世界だから。

僕は、平穏な日々が好きだ。
争いを好まなかったキミが、いつも笑って過ごしていたから。

僕は、楽しそうにしている人が好きだ。
笑顔でいれば本当に楽しい気持ちになるって、キミがそう言っていたから。

でも。

キミはある日突然この世界から消えた。
陰で何をされていたか、僕に一言だって相談すらしてくれずに。
自身を鼓舞させる、鎧みたいな笑顔を

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【短編小説】自責

【短編小説】自責

「シロちゃんは幸せだったと思うよ」
スマホの変えられずにいるロック画面をぼんやり眺めていると、向かい合うように座ってコーヒーを啜っていた友人が、遠慮がちにそう言った。

「そうかな」
「そうだよ。あんたにそんな愛されてさ
私がまだ子猫だったシロちゃんを譲った時、あんた何て言ったか覚えてる?こんなワガママそうなの、どうせすぐに手放すか脱走するに決まってるって…表情1つ変えずにボヤいてたんだよ?」

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