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〈偏読書評〉続・壮絶すぎる過去を、軽やかな「笑い」と「救い」へと昇華する漫画力:『ほとんど路上生活』

かねてより(勝手に[1][2])応援してきた、川路智代さんの『ほとんど路上生活』。6月2日に待望の単行本が発売されました!

『ほとんど路上生活』の内容については、もう私がご紹介するのも何なので(好きすぎるあまり、うまく紹介できないので)amazonに掲載されている内容紹介を以下に引用します。

最凶最悪の父親から逃亡した先は宴会場!?
DVかつギャンブル狂の父親に耐えかね、一家は「夜逃げ」ならぬ「昼逃げ」を決行!
だが、辿りついた新居は、お風呂や台所はおろか玄関のドアすらない宴会場だった…。
本作は、著者が中学生の頃に体験した出来事をもとに描いた物語です。
目を背けたくなるような圧倒的現実をポップに描き、連載をスタートするや、バラエティ番組でも紹介され話題になりました。
今回の単行本化にあたり、この本でしか読めない描き下ろしエピソードや4コマを多数収録しています。
虫との共生、容赦のない雨風、直撃する四季、そして、次々と現れる謎のおじさん軍団…。
ドアがない事によって数々の試練が襲いかかりますが、『昼逃げ』一家は今日も明るく逞しく生きています。

また単行本発売にあわせて、様々な媒体で『ほとんど路上生活』が取り上げられていたり、川路さんへのインタビュー記事が掲載されています。

で、それらを読めば読むほど、あらためて感じるのが、川路さんの《想像を絶する過去》の実体験を、《軽やかな「笑い」あふれる実録漫画》として成立させてしまう漫画力のすごさ

イタコ漫画家として名高い田中圭一さんによる、著名な漫画家さんたちの好物について、漫画家さんご本人ではなくご子息・ご息女にインタビューした取材漫画田中圭一の「ペンと箸」 - 漫画家の好物 - (小学館刊)。この第三話には、赤塚不二夫先生のご息女である、赤塚りえ子さんが登場します。

この第三話のラストでは、りえ子さんの身におきた想像を絶する悲しいできごとについても描かれるのですが、その中で……

パパが家庭を
ぶっこわしてまで
こだわり続けた「笑い」ーー
その「笑い」は人を絶望の底から
すくいあげる「生きるエネルギー」
なんだって
パパから教えられた気がしたんです

……と、りえ子さんは語られています。

単行本となった『ほとんど路上生活』を読んで、川路さんの「目を背けたくなるような圧倒的現実をポップに描」く漫画力は、まさにりえ子さんが感じたものと通じるものがあると感じると同時に、ギャグ漫画の真髄をあらためて学べたような気持ちになりました(なんか小学生の読書感想文みたいな文章で大変申し訳ないのですが……)。

それと単行本版『ほとんど路上生活』を読んで、個人的にすごく驚愕させられたことについても、ここで書かせていただきます。

単行本には連載時には掲載されていた扉絵が収録されていないので「もう一回見たいな……」と、試し読み用に今も公開されている、連載初期のエピソードを久々に読み返したのですが……

もう絵が全然違うんですよ……っ!! もう加筆修正ってレベルではなく「ぎゃーっ!! これ、もう完全にイチから描きなおしてるじゃん!!」って、その作業量を想像しただけで震えてしまうくらいのレベルで。

しかもコマによっては背景を描きこむ「加筆」ならぬ、余分な描写を徹底的になくす「減筆」がなされているんですよ……。もう違和感を覚えることなく、単行本を読んでいた自分が恥ずかしくなる(もしくは記憶をつかさどる脳の部位に、重大な欠陥でもあるんじゃないかと疑ってしまう)くらいに……。

しかも、連載当時は繊細だった線が、単行本ではグッと太くなっていて、連載時よりもはるかに力強くのびやかになっているんですよ。浮世絵に関しては専門外なので、表現が正しいかどうか(かなり)怪しいのですが、伊藤若冲の作品のように繊細かつ細かい描きこみが多かった装飾的な絵が、中村芳中北尾政美の作品のように滑らかな線でシンプルな最小限の描写をしながらも圧倒的な存在感を放つ絵へと変化しているように自分には感じられるんですね。

もう末端ライターの語彙力では、この変化(というか進化!)のすごさは伝わらないと思いますので、単行本をお持ちの方は、ぜひ見比べてみて欲しいです。チビりそうになりますよ、マジで

で、どちらの線の方が好きかというのは個人それぞれの好みですが、自分としては今の太くて滑らかな線の方が、川路さんの作風にガッチリとフィットしているように感じます。そして、この新しい線によって、川路さんの漫画力がさらにパワーアップしているようにも。

そんな漫画家として、どんどん進化をつづける川路さん。ただ単行本に収録されているの、母・のばらさんの半生を描いたエピソードまでなんですよね……(それでも単行本は220ページを越えるボリュームとなっていて、これもこれでスゴイ)。

ひとりの漫画家として、どんどん進化をつづける川路さんの姿を、これからも見つづけたい(&応援しつづけたい)ので、ぜひ続刊も刊行されて欲しいです……というか、単行本収録話以降のエピソードも紙媒体(本)という形で残っていないと、「あぁ、スクショしておけば良かった……と、本当に後悔っ!!」の悲劇が再びおきてしまいそうで怖い……。

いつものごとく、狂ったような長い投稿となってしまいましたが、単行本版『ほとんど路上生活』はブックデザインも素晴らしいので、書店などで見かけたら、ぜひ手にとっていただきたいです。

これ以上あれこれ書くと、本気で小学館さんにネットストーカーとして通報されてしまいそうなので、ここまでにしておきます。あぁ……はやく第2巻の発売が決定しますように……っ!!(祈)

【BOOK DATA】
『ほとんど路上生活』(小学館刊) 川路智代/著、葛西恵/ブックデザイン 2018年6月10日第1刷発行 ¥799(税込)

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