行き場のないメンマ
父は怒っていた。
ガタイはゴツめ、眉毛は太め、鼻が高すぎて顔より鼻が目立つという現象を生み出した父が、怒っていた。
いつもどこかのんきに構えている父が、屁をこくときに少し尻を浮かすような父が唯一厳しかったこと。それは、食べることについてだった。「食べ物を大切にしろ。米一粒残すな。」と、私と弟は子どもの頃から言われ育った。たくさん、きれいに平らげる父は、子どもながら羨望の眼差しを向ける対象だった。
ある日父とラーメンを食べていた。私は食べるのが遅く、父は先に食べ終えて私を待っていた。
いや、正確には、父は食べ終えてはいなかった。どんぶりの底に茶色いツヤのある何かがたむろしていた。よく見るとそれはメンマだった。
「父さん、それ食べんのん?残すん?そうなん?」
父は何も言わなかった。父は怒ると無口になる人だった。人の揚げ足を取るようなことをしてはいけないのだと、私はメンマを通して学んだ。
今はもっと大人になったので、父が苦手なメンマを代わりに食べてあげようと思う。メンマ好きだし。
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