見出し画像

【ショートショート】大きな木の木の実

大きな木の下で育ちました。
見上げると私を陰で包んでしまうくらい、入道雲のような大きな木。

ここには見渡す限り、緑の大地と紺碧の海、広大な草原にぽつんと寂しくそびえる木です。耳を澄ますと涼やかな草を揺らすささやかな音しか耳に届きません。稀に海からふきつける乱暴な風が悪戯をします。

もしかすると、木から生まれたかもしれません。それほど愛しく身体の一部だから、欠かさず毎日食べています。

喧嘩して涙するとき、愁い、友人や家族と抱きしめあうとき、他人を責めて、自分を蔑んだときも食べるのです。

噛みしめたあとに溢れる甘い果汁と共に歯と歯の間に繊維が挟まる厄介なことも、好きの1つ。全て受け入れ、皆は嫌がるけれど、それも“それ”の個性の1つです。

此処で育まれ、毎日欠かすことなく食べて、生きています。年を重ね、おとおさんのように愛しい人と家庭を築き、おかあさんのように愛しい人の子供を産み、おじいちゃんのように歩くことが遅くなってもたくさんの孫に囲まれて、おばあちゃんのように腰が曲がっても美味しいご飯を作り続け、これからもいつもお腹を満たし続けて、子々孫々へ代々伝えるでしょうし、必ずとも伝えていくのです。

この大きなパインアップルのような実が育つ木の下で育ったわたしなのだから。だから、甘酸っぱい彼が好きなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?