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公正証書ってなんだ


暑い暑いとぼやくナチコを引きずってどうにかたどり着いたカフェのドアを押し開けると、既に集まっていた人たちの顔が一斉にこちらに向けられた。


おっと私たち、ここにいる誰より若いのでは?


さてさて、前回の記事で妊活初心者講座への参加を決めた私たち。今回は講座当日のお話です。

開催場所は新宿2丁目のとあるカフェ。

入り口近くの席を確保して汗を乾かしていたら、カフェのオーナーであるさとこさんが挨拶に来てくださいました。彼女はここを含む4店舗の経営者に加えこどまっぷの代表と、いつ寝てるのか心配になるような肩書の持ち主。ハタチの頃にトークショーのパネラーとして団体の活動に参加したのも、彼女のツイートをみかけたのがきっかけでした。



今回の初心者向け講座は3部構成で、基礎知識についての説明に続き、実際に子どもを産み育てている先輩レズビアンマザーが自身の経験を語ったあと、LGBTファミリー向けに妊娠出産に関して起こりうるリスクやそれを回避するための契約について法の専門家が紹介する内容でした。


基礎知識は妊娠に至るまでの方法についてが主な内容で、実在する家族の話やちょっとしたトラブル例なんかも含まれていました。

それをさらに噛み砕き、具体的な例として先輩ママが実体験を赤裸々に語ってくださいます。

これがね、とっても勉強になった。とにかく話し上手な方で、絶妙なタイミングで小ネタを挟む挟む。それまで緊張感が漂っていた場内は笑い声でほぐされていきました。途中でぐずり始めた可愛い娘さんも登場し、片手に我が子を抱きながらの登壇でした。

ここまでは既に得ている知識も多かったため、私は隣で驚いたり納得したりするナチコを観察する余裕っぷり。


同性カップルが妊娠する方法は私たちが実際に開始するタイミングで紹介するつもりでいますが、とりあえず簡単に(そして誰にも遠慮せずに)言うとものすごく作業的。そこに法的な罪は何ひとつないのですが、倫理的な視点から背徳感を感じる人は少なくありません。私自身、その方法を知ったときは「それ、やっていいこと?」というのが最初の感想でしたし、ナチコの反応をみてそう思うのは私だけじゃないことに安心しました。そして、妊娠に至るプロセスに第三者の介入を予想していなかった世の不妊に悩む男女が人工授精に戸惑って躊躇するのも、そりゃそうだよなと思ったりします。


話を戻しましょうね(真面目な話を始めると寄り道が増える)

第二部を終えた講座は一旦休憩を挟んだあと、法的な話に突入しました。
スクリーンに映る読み方に迷う漢字の列と連発される聴き慣れない単語を受け、会場内には序盤の緊張感が再来。今振り返るとかなり貴重な機会だったのに、頭の処理能力が追いつかなくてメモどころか聞いたまんまを丸呑みすることしかできなかった…。

ただこれをきっかけに、私とナチコの間に新しい話題ができました。それまでぼんやりとしか考えていなかった公正証書についてです。

なんじゃそりゃ(心の第一声目はこれでした)


公正証書とは、いわゆる契約書や遺言書のうち「これは両者合意のもとに締結されましたよ」と公証人から保証されたもののこと。当事者が「あの契約は偽造だ!相手が嘘をついてる!」などと言い出したとき証拠の役割を果たし、私的な揉め事を未然に防ぐ力を持っています。

公証人は裁判官や検察官など法務に関する職を永年勤め、法務大臣から任命されたいわば法の専門家。
事実上の効力以前に、絶対に言い逃れできないという心理的な効果も絶大ですよね(実際できないから事実)


講座で得た知識とネット記事をかじりまくった説明はざっとこんなところ。

で、ここからやっと本題。


私とナチコが目をつけたこの公正証書、実は近年作成する同性カップルが急増している。らしいのです。
主な内容としては、貞操義務や財産分与、死後の相続などなどについて。つまり「浮気しちゃだめよ」とか「ふたりで協力して生活しましょうね」みたいなこと。これらの約束をまとめ、公証人に厳正な手続きを踏んだ文書として作成してもらうことでふたりの関係と双方個人の権利を法的に守ることができます。
ちなみにこの約束を破った場合、民事裁判で公正証書を提出すれば有力な証拠として認められるし、金銭については強制執行をかけることも可能。婚姻と同等の効力を持たせるのであれば一度作成した公正証書をどちらか片方の意思だけで解消することは難くなりますし、内容を変更するのもかなり複雑な手続きが必要になります。


そんな重責なものを恋愛関係に持ち込むなんてちょっとやりすぎでは?と思ったそこのあなた。


私たちが作ろうとしてる公正証書の内容って、実は民法の婚姻制度が基。なんなら公正証書だけではカバーしきれなくて、婚姻制度にできるだけ近い内容にするのであれば遺言書も必要になってきます。婚姻にまつわる法律の条文には同性カップルが公正証書と遺言書に盛り込む内容がほとんど全部入っているし、婚姻というパッケージならもれなく特典がついてくる。配偶者控除みたいな税制優遇とかね。つまり、お金払って公証人にお願いして証明してもらうことのショートカットキーは、現行の婚姻届提出(正確には受理されること)なのです。

婚姻に関係する条文を読んだことある夫婦ってどのくらいいるのかしら。あの高尚な言葉づかいのせいなのか、ずっしりきますよ。婚姻届に判子押そうとしてるそこのあなた、先に条文を読んでみてはいかがでしょうか。



で、お金も時間もかかる公正証書が面倒と見るか婚姻届が気軽と見るか。これは立場によります。私は「同性カップルはこんなに慎重に考えて話し合って関係を築くのだ!」と威張りたいわけでも「ここまでしなきゃ権利が保障されない…」と嘆きたいわけでもありません。

私が言いたいのは

これだけ複雑で多くの手間をかけることまでしてその重みを受け止めたいと思うのに、国から「あなたたちは想定外です」などという理由にならない言い訳で権利がもらえないのって、ほんとに、ほんっとに不平等だよね!!


ってことです(途中から怒りが滲んでしまった)


ボヤいても仕方がないんですけどね。

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