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3.19

アナウンスが流れて、私たちは体育館を出る。教室に戻って、集合写真を撮る。少し先生が話した後、正面玄関へと向かう。後輩や他の学年の先生が拍手する。見送りのようにも、追い出されるようにも感じられる、これが卒業。

校門に散らばる、河津桜の濃いピンクを踏みながら歩く。みんな親や友達と写真を撮っている。私はそういうのいいかな。親来てないし。友達はいるけど、みんな浅いし。写真なんて見返さないし。
「部活で写真撮らなーい?」
副部長だった彼女が笑顔で提案する。
「いやいいよ、呼ぶのめんどくさいし。」
あっ、却下。
「そういうとこじゃん…」
副部長はふてくされてしまった。
なんだ、撮ればいいのに。そこには半分くらいの部員がすでに集まっていた。副部長と部長が合わないことは、部員もなんとなく分かっていた。本人たちはもっと分かっていた。それでも副部長は最後まで楽しく終わらせようと努力した。だから部長の「もう卒業したから他人」感が、なんだか嫌な感じだった。高校生になって彼女たちが関わることはないのだろう。

特攻服を着たヤンキーもいた。背中には「友」を語るイタいセリフがたくさん刺繍してあったけど、そんなにダサくはなかった。
学ランのボタンをたくさん渡している友達もいた。そしてたくさんもらってる友達も。そんなんたくさんもらってどうすんの?って思った。だって見分けつかないじゃん。あとで親にでも捨てられるんだろう。

部活で写真撮れば、一応卒業式で写真を撮ったことにはなったのに、なんて思いながら正門を出た。私より先に門を出ている友達もいた。「いやあたし、スマホ持ってないし親も来てないから、カメラないっす。」とのことだった。小学生からずっと仲が良かった。登下校もたまに一緒にする、喧嘩もしたことがない。友達と遊んだり約束したりするのが苦手な私には、彼女の距離感がちょうど良くて、楽で、大好きだった。
写真撮影に夢中なみなさんより一足先に、彼女と帰宅することにした。自分の部活は写真を撮らなかった話、まさかの彼女の部活も写真を撮らなかった話なんかをしながらダラダラ歩く。いつも通りの帰り道だった。いつもと違うのは、セーラー服のポケットについた造花と、少ない荷物、鞄の中の卒業証書。
「あ、成人式さ、友達いないから一緒に行こうよ。陽キャ怖くて誰か一緒じゃないと無理だよ〜」
スマホ持ってないのにどうやって連絡取るんだよ、と思いつつも、私は彼女と成人式に行く約束をした。なんだかんだ小・中学校の行事はいつも一緒に行っていた。どうせまたなんだかんだ一緒に行けるんだろう。
別れ道、「またね」と言われた。まるでまた一緒に登校するかのような言い方だった。高校はもちろん別。場所も近くない。次いつ会えるかなんて分からないのに。
私は「うん、じゃあね」と返した。
彼女が本当に約束を覚えていてくれるのか、高校生になっても、大人になっても仲良くしてくれるのかを試すような意地悪な言い方だった。
「成人式、あんたが他の友達と行ってたら泣きます!」
彼女は手を挙げて叫んだ。
「そんなことあるわけない!友達が少なすぎて!」
私も叫んだ。彼女は笑って、挙げた手をそのまま横に振っていた。

公園の木がざわざわ揺れる。芝生の草は同じ方向に倒れている。砂が巻き上がって小さな竜巻ができる。きのう咲いたばかりかもしれない花もすぐに散る。そして、私の前髪が崩れる。春の嵐、それも今日だけは許してやろうと思った。

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