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「火星のねずみ」2

ねずみは続けて言った。

「わたくしはこれから火星へ帰るところでございます。もしよろしければ連れてさしあげても良いのですが」

上目遣いでちらりと私を見る顔には、どこか卑屈さがあった。明日の朝は、選択矯正施設にゆかねばならない。それまでに戻ってこられるだろうか。しばらく考えてみたが、考えることが無駄なような気もした。

「じゃあ連れて行ってもらおうかな。何を持ってゆけば良いか…」

ひとりごとのように呟くと、ねずみはこう答えた。

「必要なものはもうお持ちでございます。黄金虫の羽をひとそろえと、蛹のままの蝶々があれば火星にはいつでも入れるのでございます」

ふと左手を見ると確かに私は、その二つを持っているのだった。そして急に空間がぐにゃりと曲がり青や緑の光が出ては消えた。最後に赤い色で視界がいっぱいになり、その赤さが目の奥に焼き付いた。

そうして私は火星にたどりついてしまったのだった。

つづく

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