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【ショートショート】信州女と青森男

これは信州出身の女性と青森出身の男性が紡ぎ出す、小さな物語である。

年末。男と女は家の大掃除をしていたのだが、男は奇妙に感じていた。
というのも、女が黙々と作業をしているからである。
普段男が家事をしている時には、あれこれと言ってくるのだが・・・

「なあ、ここも掃除するのか?」

たまに話しかけてみても、

「・・・・・・」

無言でうなずくだけ。

「これ、捨てていんだべが?」

「・・・・・・」

わざと訛りながら聞くと、睨みつけながらぶんぶんと頭を横に振る。

訳がわからず、

「ついに頭がおがすぐなったか・・・」

と呟くと、無言で蹴りが飛んできた。
とは言え、うるさく言われることもないので自分も集中出来る。むしろ好都合と男は黙々と掃除をしていた。

ピンポーン

チャイムの音だ。
ちょうどベランダ掃除をしていた男が玄関先を覗くと、対応した女は無言のまま荷物を受け取っていた。

(なんか言えよ)

そう思いつつも、掃除を進めていく。

いつしか不要となったものの処分に取りかかり、男は既に女が使っていないクッションやらマフラーやらを大きなゴミ袋に次々と突っ込んでいった。

やがて大掃除も一段落がついたため、休憩に入る。

「あ~、疲れた」

「・・・やっと喋ったね。なんで、黙ってたの?」

「え? 掃除は無言でするもんでしょ。学校の掃除、無言でやらなかった?」

「・・・何それ? 長野はそうなの?」

ここでやっと無言だった理由が判明。学校での習慣が大人になっても残っていたのかと男は驚く。
一休みして、さて再開するかと腰を上げると女が尋ねてきた。

「あれ? ここにあった私のマフラーは?」

「ああ、どうせ使ってないだろ? 捨てといた」

男がゴミ袋を指しながら言うと、女の表情がガラリと変わった。

無言のまま男を睨みつけると親指を立て、それを横に引いて首を切る真似をした後、親指を逆さまにして下におろした。
その後、男がひどい目にあったことは、言うまでもない。

おわり

注)無言清掃・・・信州の一部地域で実施されている(らしい)、学校の掃除を無言で実施するという習慣。

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