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atelier HIKITSUGIができるまでとこれから 〜最終章 『atelier HIKITSUGI』 Shoのエシカルアクション〜

全4章に渡る連載も今回が最終章。
今回もリメイクファッションブランドのAtelier HIKITSUGIの創設者の今井翔さん(以下、sho)にお話を伺っていきます!

第1章では「Shoさんの経歴」について、第2章ではエシカル視点からの「ファッションの歴史」、第3章では「エシカルファッション」について語っていただきました。
今回はいよいよshoさんが行っているエシカルアクションのひとつである『Atelier HIKITSUGI』についてのお話です。

まだ第1~3章をご覧になっていない方はそちらから。
もちろんこの記事から読んでもわかる内容になっています!

それではどうぞ!

■『atelier HIKITSUGI』ができるまで

─前回の記事での「エシカルアクションはみんなができることから始めればいい」という言葉にだいぶ救われた感じがしました。
Shoさんはご自身で起業されてからはずっとエシカルファッション領域で事業を行ってきましたよね。今回新たに始められる『atelier HIKITSUGI』はどういった事業なんでしょうか?

まず、『atelier HIKITSUGI』を作るまでの経緯をお話しますね。

僕は普段からずっと、服をリペアしたりリメイクして生きてきた人間で、服を買うときには「ダメージがひどくて引き取り手がいない」ものであったり「デザイン的にどうしても今の時代では着られない」などの理由で売れ残ってしまった物を買うようにしています。
そういった服を買い続けて気付いたのですが、ちょっと小穴が開いていたりだとか、肩にパッドが入っているからという理由で、次の貰い手が見つからない服が非常に多いんですよね。

そういった買い手のつかない服達を引き取ってリペア、リメイクして販売したら売れるのだろうか、という実験をしたところ、ほとんどの商品に買い手がつきました。
ほんのひと手間を加えるだけでまだまだ使ってもらえる服が世の中に山積していることがわかったんですよ。これは実にもったいないことだなと思いました。
フリマアプリなどでたくさんの人が服を出品してますが、そのうちの何割かはこのようなダメージやデザインが理由で売れずに眠ったままだったり、最終的には捨てられてしまうんですよね。

こういった経緯から「洋服に"ヒトの手"を加えることで、次の方に"引き継い"でもらうファッションコミュニティ」を作ることにしました。
それまでは一人でコツコツやっていたけど、共感してくれたメンバーにも手伝ってもらった方がより多くの服を救えると思ったんです。それが2018年の冬のことです。
名前の由来は、「着物など先祖代々伝わるモノを親から引き継ぐ」という、大切な洋服をずっと使い続ける日本古来の文化をイメージして ”HIKITSUGI(ヒキツギ)” としました。

そして、社内で「コミュニティ的なファッションブランドを作りたいです!」と宣言したところ、インターンの服飾専門学生の子も「やってみたい」とのことで、2019年3月26日に開催されたMODALAVAのOpen Closet Marketのイベントで初の展示を行いました。2人で制作した30点ほどの展示でしたが、見てくださる方に楽しんでいただける展示になったと思います。

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2019/03/26に開催された1stコレクションのアイテム
HIKITSUGIのインスタでも見られます。

■ 『廃棄予定の服を救う』リメイクコミュニティ

─その展示は私も見ましたがお客さんの反応もとてもよかったですよね。作品一つずつに元の素材の写真やどうしてそのデザインにしたのかの説明もあってそれを見るのも面白かったです。

ありがとうございます。そして、その展示を見に来てくださった方の中に、繊維専門商社の豊島株式会社の方がいて、その方から「なにか一緒にできるといいですね」という言葉を頂戴したことでHIKITSUGIが急展開していきましたね。

第1章でもお話しましたが、繊維専門商社はアパレルブランドの服を作るのがお仕事です。多くのブランドの服を担当しているので、その在庫数もすごい数になります。そういった状況で、「スペース的にも保管しておける量には限りがある」「エシカルアクションをすることに対して人員を割けない」などの理由からどうしても廃棄しなくてはならない場合も出てきてしまいます。

またアパレルブランドでは、「売れ残りや処分品がこれだけあります」と公言してしまうこと自体が「ブランド棄損」に繋がってしまうことから、エシカルアクションをしたくてもすることができないといった状況があります。

このように、今世界中で服の廃棄問題が話題となっているので「どうにかしなければならない」という企業が増えてきているにもかかわらず、取り組むことが難しいアパレル企業は多いです。これはとても残念なことだなと思いました。

一方で、服を作りたい人も様々な悩みを抱えています。一般の方が一から手作りで服を作ろうとすると、やったことのない人にはとてもハードルが高いですし、材料も思った以上に高い。そういった理由から服を作ることを諦めてしまう人が結構多いんです。


そこでMODALAVA社内で話し合い、「『エシカルになりたいけどもその一歩がなかなか踏み出せない企業』」と『服を作りたいけどコストや技術的に諦めてしまっていた個人』をサポートする仕組みを作ろう!」ということになり、検討を重ねた結果生まれたのがHIKITSUGIのサブスクリプションサービスです。

このサブスクリプションサービスでは、不要になったり廃棄されてしまう予定の服を我々が集めて、会員の方はそれらを自由にリメイクに使えるというサービスです。
そして現在、このサービスで使用する服に豊島さんの廃棄予定品を利用させていただくことになっています。他にも、ボタンやファスナーなどの服飾資材屋さんや、ネクタイメーカーさんの参画も調整中です。素材をご提供いただける協賛企業はどんどん増やしていきたいと思っています。アパレル企業にはこのサービスを通して、CSRの一環として少しでも多くの廃棄予定商品を救っていただければと思っています。

また、作る人にとってもリメイクなら0から作り始めるよりもだいぶハードルが下がりますよね。パターンを設計したり、生地を買いに行ったりする手間も省けます。生地の上に絵を描くだけでも立派なリメイクなのでミシンがなくてもできます。リメイクは専門的に服作りを学んだことがない方でも楽しめるのがいいですよね。

これからしっかり服作りをしたい方には、気軽に参加できるようにワークショップも開催予定です。今はミシン屋さんに来ていただいてミシンの使いを教えてもらえるイベントなどを企画中です。コミュニティに参加してくださる方と話し合って、みなさんに求められるイベントを開催していきたいです。

■ 「愛着」のある服を着られることが「贅沢」になる

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─いろいろなアパレル企業が参加してくれることで素材のバリエーションも増えるし、クリエイターの数だけ個性的なアイテムが生まれていきそうでワクワクしますね。早く作品を見てみたいです!

そうですよね!僕も楽しみです。
リメイクファッションは、作る人ももちろん楽しいのですが、僕は着る人にこそ楽しんでほしいと考えています。人の手で作られたものを堪能できるのは着る人が味わうことのできる特権だと思うからです。

そしてこの特権はこれからの時代において非常に重要だと僕は考えています。なぜかというと、これからの世の中ではこれまでと「贅沢の質」が変わると思っているからです。

今までは、「お金を稼いで普通の人では買えないような高級ブランドの服を買うことが贅沢だ」というのが、ファッションにおける贅沢の典型例とされてきました。
しかし、今では「高級ブランドの服」と、それと比べると「低価格のブランドの服」が実は同じ工場で作られているということも少なくなく、両者に質的に違いがないことがあります。この場合、消費者が高級ブランドの服を買うということは「ブランドネームに対してお金を払っている」ことになりますよね。
つまり、生産のオートメーション化が進み、機械で簡単に一着の服が作れるようになっても、おそらく高級ブランドの服の値段は多少下がったとしても高いままでしょう。作るのが簡単になっても、ブランドの価値が下がるわけではないからです。
そのようなお金の使い方は果たして本当に贅沢なのでしょうか?

一方で、人の手で丁寧に編まれた生地に、一針一針何日もかけてあしらわれた刺繍の入った服を着ることを想像してみると、すごくテンション上がりませんか?
手の込んだ服なら「着てみたい」って思うし、ずっと「愛着」をもって大切にしたくなります。流行のデザインじゃなくても、ちょっと高くても、本当に好きな服を着ることが贅沢だし幸せなんだと僕は考えます。世界的に見てもそういう風にだんだんと「贅沢の質」が変わってきているように感じています。

ただ僕は、「大好きな高級ブランドの服を買うことが幸せだ」と思う人はそれで良いとも思っていて、高級ブランド品を買うこと自体を否定するつもりはありません。何が幸せかは人それぞれです。
ですが、本当はブランドにあまり興味がない人が「人気だから」などの理由でブランドの服を着ても、一瞬テンションが上がっても本当の満足感は得られないと思います。
大事なのはその服に対して「愛着を持てるか」「気に入っているか」なのです。気に入っている服ならばたくさん着てあげられるし、そうでないならずっとクローゼットの中で眠ったままになってしまいます。

■ 服のストーリーに触れると愛着がわく

─確かにそうかもしれませんね。私も気分を上げたいときに着ている服があって、その子には愛着があります。でも着ていくうちに愛着が湧いてくるのとは違って、まだ買ってもいない服に対して愛着が湧くのってどんな時なんでしょうか?

お店などで服を手にしたときに愛着が湧くのには、その服の背後にある「ストーリー」が重要だと考えています。

お店で服を見たときに、「すごくかわいいプリントだけど、これ何の柄なんだろう?」「ポケットがここについているのには何か訳があるのかな?」など、疑問に持ったことはありませんか?僕はそうした、服の裏側にある「ストーリー」を実際に作った人とお話をしていると、その服との親密性が高まって、自分のものでもないのに愛着が沸いているという経験をしたことがありますが、いかがですか?

今って、服を作っている現場でそのまま購入できる機会って極めて少ないです。テーラーに行ってオーダーメイドのスーツを作る場合でも店舗と生産の現場は別になっていることが多いですよね。

最近の子どもは、魚がスーパーでは切り身の状態で売られているので、「魚が切り身のまま海を泳いでいる」と思っているということを聞いて大変驚いたことがあります。ファッションの分野に限らず、販売する場所と生産・加工をする場所が離れすぎてしまっているの結果だと思うのです。

実際に目の前で作っている現場を見て、作ってる人とお話して、気に入ったらその服を買う。愛着も湧いてくるし、それはとても贅沢な体験になるんじゃないでしょうか。

HIKITSUGIでも、そのように消費者と製作者がオフラインで実際に顔を合わせて話ができる店舗やイベントを増やしていきたいなと思っています。実際に作っている人たちの姿を見て、その格好良さ・輝きを間近で見て感じて欲しい。そして、作るという職業に憧れて、日本のモノづくりを継承したい人が少しでも増えることも願っています。そうした贅沢な体験のできる場所を作っていきたいと思っています。


このように、在庫廃棄問題に取り組みたい「アパレル企業」、リメイクファッションを「作りたい人」、その作品に触れてエシカルファッションを「味わいたい人」、いわゆる「エシカルになりたい人たち」で作るファッションコミュニティが『atelier HIKITSUGI』です。
ゆくゆくは、今お話したように店舗で販売する機会、作品の展示会やレンタルサービスなども設けたいと思っています。個々の力を合わせて僕たちは一つのブランドになっていくのです。

■ リメイクコンテスト『Clothes Renovation』開催

コンテスト

─たしかに。実際に制作現場でそのまま服が購入できる場ってあまりないですね。そういった場所をどんどん増やしていきたいですね。

そうなんです!その機会の第一弾として「リメイクコンテスト」を開催することにしました。
一般の方に、廃棄予定の服をもとにリメイクをしてもらって、それを審査をするコンテストです。年齢もプロアマも問いません。驚くことに賞金まで出てしまうんです。詳しくはコンテスト公式サイトをご確認ください。

現在特別審査員として、エシカルアーティストのさんとエシカルファッションプランナーの鎌田安里紗さんの参加が決まっています。
参加者の方も、予想を上回る数の参加申し込みをいただいていてとてもうれしく思っています。どんな作品が出来上がるのかMODALAVA社内もすでに大変盛り上がっていますね。個性の詰まった一点物の面白さが味わえるコンテストになるといいなと思います。

また、今までモノづくりをすることがなかった人にとっても、今回のコンテストは色々な気づきのきっかけになるのではないかと思っています。
海外では未経験者向けの刺繍や編み物などのワークショップが増えており、自分の服を自分で作ったことのある人が増えてきました。
そういった経験を通すことで、実際にお店で服を手に取った時、「こんなに手のかかった服がこんな低価格で売っているのはおかしい!」と感じるようになったり、「この服の作りは非常に凝っていてすごいな。作るの大変なんだろうなー」という作り手に対するリスペクトが生まれます。
こういうことって普段買うことしかしていない人は気付けないんですよね。実際に作ってみることでその大変さ、楽しさを味わってみてほしいと思います。

■ 最終的に作りたいのは「モノを大事にする文化や心」

─作品が出来上がるのが待ち遠しいですね!私も早く見たいです!!
さて、長くお話いただいたこのインタビューもそろそろ終わりが近づいてきました。最後に『atelier HIKITSUGI』に懸ける想いをお聞かせいただけますか。

まず、結構長いし分かりづらい部分もあったかと思いますが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

僕は「エシカルになりたいから」という理由で今やっているような活動をしているわけではないんです。そもそも最初に活動を始めた時は「エシカル」という言葉も知らなかったし、自分の事業が「エシカルファッション」というようになったのも実は最近なんです。ファッション業界に問題があって、それを「解決したいと思ったから」取り組んでるだけで、結構シンプルなんです。やりたいことをやっているだけなので。

これまで、人類は自分たちでは消費できないほどの服を作ってきてしまいました。僕たちも少なからずその状況を作り出すことに加担しています。特に僕たちはファストファッションを楽しんできた世代ですから、余ってしまっている服をきちんと消費する責任があると思っています。

その一つの方法として、『atelier HIKITSUGI』を作ったんです。

『atelier HIKITSUGI』の活動を単純化すると、

①作り手が廃棄品をリメイクすることで、服に「愛着」というスパイスを加え、捨てられてしまうはずだった服を蘇らせて無駄をなくす
②作るという経験を多くの人に体験してもらい、服を作ることの大変さや喜びを知ってもらう
③作品を手にした人が愛着を持った服を永く大切に扱う

という流れになります。
廃棄を減らしたい企業も、服を作りたい人も、服を作れない人も、みんなそれぞれの方法で参加できるのがこの『atelier HIKITSUGI』の良いところかなと思ってます。

時間はかかっても、どんな方法でもいいからなるべく多くの人に参加してもらい、最終的にはみんなが「モノを大事にする文化」を作りたいなーって思ってるんです。

今って、穴が開いてる服を見た時に、「あ、あの人服に穴が開いてるぞ。お金ないのかな?だらしないなー」という反応になると思うんですよね。
服は大事に何回も着ていれば、気付かないうちに穴が開くこともあるし、気付かないで出かけてしまうこともあるんですよね。「あ、あの人服に穴が開いてるぞ。最後までモノを大事に使い切る人なんだな」というように心の動きを変えたい。リペアやリメイクするのが当たり前の世の中だったらそういう反応になってくれるんじゃないかな?そこまでいかないにしても、穴に気付かないで服を着ていても「だらしない」とか「恥ずかしい」と周りのが人が思わないようになったらいいなと思います。

世の中の人みんなが、「モノを大事にする心・文化」を作っていきたい。
服はいつか着られなくなっちゃうけど、人の心は永遠に引き継がれていく。
そのためにあるのが『atelier HIKITSUGI』。

そしてこの目標を実現させるために奮闘することが僕のエシカルアクションです。

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■ 取材後記

これまで4章にわたりでShoさんのインタビュー記事をお送りしましたがいかがでしたでしょうか。ファッションの歴史から社会システムまで含めてアパレル業界を俯瞰できるのは、ファッション業界での問題にアプローチし続けているShoさんならでは。大変貴重なお話だったのではないでしょうか。

MODALAVAはこれからもShoさんのエシカルアクションを応援し続けます!

HIKITSUGIのコンテストも間もなく締め切りです。リメイクやエシカルにご興味のあるご友人にもご紹介いただけるととても嬉しいです。

次回以降の投稿も、みなさんのエシカルライフのお役に立てる内容にしてまいりますのでお楽しみに!

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MODALAVA公式ツイッターでは、個人でもできるエシカルファッションアイデアを日々呟いています。
MOLDALAVA公式インスタグラムでは、エシカルな(リメイク・リサイクル・アップサイクル)ブランドや人を紹介しています。

エシカルを始めてみたい人はチェックしてみてくださいね!

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