なぜSNSで人を殺すのか‐ SNSと確証バイアスの悪魔のメカニズム

人は自分の信じたい情報を信じる傾向があるという現象は、心理学において「確証バイアス」として知られています。

このバイアスは、個人が既に持っている信念や価値観に合致する情報を好むという心理的傾向を指します。

例えば、特定の政治的意見を持つ人は、その意見を支持するニュースを信じやすく、反対の意見を示すニュースには懐疑的になります。

この傾向は、情報を受け取る際に重要な役割を果たし、個人がどの情報を信じ、どの情報を疑うかに大きな影響を与えます。

人々が自分の信じたい情報を選んで信じる傾向には、いくつかの心理的メカニズムが関わっています。

まず、人は自己のアイデンティティやグループに対する帰属意識を維持しようとするため、自分の視点や信念を支持する情報を好むことがあります。

例えば、特定の社会的、政治的、宗教的グループに属する人々は、そのグループの信念を強化する情報を受け入れやすく、反対の情報には抵抗を示す傾向があります。
これは「グループ内/外効果」としても知られ、自分のグループ(「内集団」)のメンバーからの情報を好意的に受け入れ、外部のグループ(「外集団」)のメンバーが提供する情報には懐疑的になる現象です。

また、人は自分の信念を維持し、認知的不協和を避けるために、自分の信念に合わない情報を無視したり、否定したりすることがあります。
これは、人が自分の信念体系に挑戦する情報を避け、自分の考えを支持する情報を選択的に受け入れることを意味します。

この過程は、特に社会的なメディアやニュースソースの選択において顕著です。
たとえば、特定の政治的見解を持つ人々は、その見解を支持するニュースソースを選んでフォローし、異なる視点を提供するソースは避けることがよくあります。
これは「エコーチェンバー効果」と呼ばれ、同じ意見を持つ人々が互いに情報を共有し、異なる視点に曝される機会が減少する現象です。

さらに、ソーシャルメディアのアルゴリズムは、ユーザーの過去の行動や好みに基づいて情報を提供するため、この傾向を強化することがあります。

ユーザーが特定の種類のコンテンツを頻繁に閲覧すると、アルゴリズムは同様のコンテンツを推薦し、ユーザーが自分の信念を強化する情報源にさらに曝されるようになります。
これにより、情報源の多様性が制限され、個人が異なる視点や情報に触れる機会が減少します。


このように、人は自分の信じたい情報を信じる傾向があり、これは情報源の選択、認知的バイアス、ソーシャルメディアのアルゴリズムによってさらに強化されることがあります。
この傾向により、個人は自分の信念や価値観を反映する情報源を選びがちで、異なる視点に曝されることが少なくなります。

このため、メディアリテラシーの向上や批判的思考の促進が、現代社会においてますます重要になっています。


ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)は、現代社会においてコミュニケーションや情報共有の重要な手段となっていますが、同時に人間の持つ悪意を増幅しやすくする傾向があるという点に注意が必要です。

以下にその理由を詳しく解説します。

まず、SNSの最大の特徴の一つは、オンラインでの非対面性です。

実際に相手と対面していない状況では、相手の感情的反応や表情を直接見ることができないため、共感の感覚が低下しやすくなります。
これにより、通常の対面コミュニケーションでは抑制される可能性が高い攻撃的な言動が、オンライン上では表出しやすくなります。
実際に相手の傷つく様子を目の当たりにしないため、言葉の重みや影響を十分に認識しにくくなるのです。

次に、SNSの構造が感情的な反応を促進するという点も重要です。
多くのSNSは、瞬間的な感情の表出や衝動的な反応を促すように設計されており、これが攻撃的なコメントや反応を引き出しやすくします。
特に、「いいね」や「シェア」といったフィードバックループは、ユーザーに瞬間的な報酬感を与え、より感情的なコンテンツが共有されることを促します。
このようなシステムは、挑発的または攻撃的なコンテンツが多くの反応を引き出すと、そのような行動をさらに強化する可能性があります。

さらに、SNS上での群集心理の影響も見逃せません。
多くのユーザーが攻撃的な行動に参加することで、個々の責任感が薄れ、攻撃的な行動が正当化されやすくなります。

これは「非難の拡散」として知られる現象で、個人が大勢の一部として行動することで、自分の行動に対する個人的な責任を感じにくくなるというものです。
この結果、SNSでは悪意ある行動や発言がエスカレートしやすくなります。

また、個人の特性もSNS上の行動に影響を与えます。
自己肯定感が低い人々や攻撃性を持つ人々が、自己の価値を高める手段として他者を攻撃することがあります。
SNSは匿名性を提供する場合も多く、これが個人の攻撃性をさらに増幅させる要因になり得ます。

集団内での役割もSNS上の攻撃的な行動に影響を及ぼします。
ユーザーは、特定のコミュニティやグループの一員として、そのグループの規範や価値観に従って行動することがあります。
これにより、個人の道徳的判断が群衆の動きに影響され、攻撃的な行動が正当化されることがあります。

総じて、SNSは非対面性、即時性、感情的反応の促進、群集心理、個人の特性など、様々な要因が複合的に作用し、人間の持つ悪意を増幅しやすくする傾向があります。

SNSが攻撃的な行動を促進する可能性に関する研究はいくつかあります。
これらの研究は、SNSのフィードバックループや報酬システムがユーザーの行動に影響を与える可能性を示唆しています。

以下はその要約です

報酬システムと行動の強化:
ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)の使用が報酬に対する感度を変化させる可能性があります。
特に、「いいね」や「シェア」などのフィードバック機能は、報酬系を活性化し、感情的なコンテンツや論争を引き起こす投稿が優先されることがあります。
これは攻撃的または挑発的なコンテンツが強化される可能性があることを示唆しています (Ihssen & Wadsley, 2020)。


感情と報酬の処理
感情的なコンテンツや否定的なフィードバックが攻撃的行動を引き起こす可能性があります。
このようなフィードバックは、脳の報酬系、特に中脳ドーパミン系を通じて処理される可能性があります。
例えば、報酬に対する期待が否定されたとき、フィードバック関連の否定性(FRN)という神経反応が見られることが示されています (Cohen, Elger, & Ranganath, 2007)。


報酬と攻撃性の関連性:
報酬に関連する脳領域は、攻撃的行動にも関与している可能性があります。
例えば、基底前脳から側坐核への投射は攻撃報酬を調節する役割を果たしていることが示されています (Golden et al., 2016)。

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