【連載】負けない 第9話(完)
平成十九年十二月二十五日に悦子は逝った。
再入院してから家に戻ることは、かなわなかった。
葬儀が終わった。
その後暫く、弘は抜け殻のような日々を送った。
しかし、翔の幼稚園の送り迎えや炊事洗濯は、悦子との約束通り、一生懸命やっていた。
悦子が生前、身に着けていたものなど暫くそのままにしておこうと思った。
リビングのサイドボードの上には、ブーケが飾って置いてある。悦子が大事にしていたものである。
そのブーケが入っている透明の箱の上には、薄っすらと埃が付いている。
そのブーケを見つめていた弘は、ふと思いつき、本箱の中から悦子の日記帳を取り出した。
そこには、封筒のようなものが挟んであった。悦子から弘と翔に宛てた手紙だった。
・・・・
揺れ動く想い出と共に、いま二人に手紙を書いています。
いままで必死に生きようと してきました。
もう少し 生きていたかった...…。
わたしは、最後まで負けない...…。
たとえ、わたしの命が枯れても、二人の傍にいるよ!
わたしのこと、忘れないで....…。
・・・・
傍らにいた翔が、
「ママからの?」
弘は翔の顔を見て大きく頷き、流れ落ちる涙を拭こうともせず、その手紙を翔に差し出した。 了
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