ぐつぐつ、ことこと

 しっかり煮ると美味しくなる。冷ますと味が染み込む。時間をかければ料理は美味しくなる。あっ、煮込み過ぎて干上がってしまった。料理は人に食べてもらわなきゃ…。



 考えすぎるのはよくない。しかし癖になっているのだから仕方ない。そして通学途中の電車で大学の同級生を見かけた私は話しかけるかどうか悩んでいる。こちらは一人、向こうは二人。話しかけようか。私は彼らと普段話はするものの特段仲の良いわけではない。一方向こうは二人で話をしているわけだ。ここで割り込んでは私は異物。ハンバーガーにプラスチックの破片みたいなものだ。やはり話しかけるのはよくないだろう。と、このような理屈をこねくり回し逃げ道をつくるのが私の得意技である。
あぁ、空はあんなに晴れているというのに、なぜ私の心はこんなにも霧がかっているのだろうか。いかにしたら晴れるだろうか。松岡修造かわざマシン97があればいいのだが。このような状況は日常茶飯事で、嫌かと言われればむしろ自分の世界に入れるキッカケであるため好都合である。(有難いとかより好都合の方がそれっぽい。)自分の世界は心地が良くて好きだ。阻害されることはないし何にも縛られない。自由である。しかし退屈だと感じることがある。それは自分の中で完結してしまうことだ。他からの刺激がない。というか刺激があると自分の世界は扉を閉ざしてしまう。そう、電車を降り強い日差しを浴びてしまえばもう…。

 大学四年生の五月といえば就活や実習、国試の勉強などで忙しかったりする。ただこの男は暇を持て余していた。就活が終わったわけでも資格をとったわけでもなく、その後の進路が未確定であるにも関わらずである。彼は実直に今を生きている。今に全力なのだ。「見て見ぬ振りしてるだけだろ」
人の急所をピンポイントで撃ち抜いてきたコイツは山﨑。同じ大学の同級生だ。コイツはもう企業から内定をもらっているらしい。いいよな物語は、設定すら弄ればそいつのパーソナリティから進路、人生全て決められるんだから。おい作者俺に一体どんな設定をぶち込んだんだ。もうちょいあったろ適当につけやがって。その設定で生きる身になってみろよ。
お前が怠けただけだろ。
とこのようにツッコミ担当でもある。
「だいたいお前は行動に移すまでが遅いんだよ。遅いというか行動しない。頭の中でわかった気になってやがる。なんもわかっちゃいないくせに。てめぇのそうゆうとこがつくづく腹が立つね!」
そんなこと言われるより遥かに前に何度も自分を責めたさ。でもブレーキベタ踏みが通常運転の俺はそれでも動けないんだよ。
と心の中で反論して、口では、ウルセェなとだけ答える。
「で、どうすんだよ、卒業後のこと考えてんのかよ」
「考えてないね、できないこと考えても仕方ないだろ」
仕方ないってなんだよ、と呆れた顔をされてしまった。ほっとけ。
「まぁ、お前がどう生きようと勝手だけどよ、んーお前がスーツ着て働いているところは想像つかねーや、ハハハ」
だよなー俺も、と一緒に笑った。笑うことにした。笑うしかなかった。最近ため息が増えていた気がするから笑えていることが少し嬉しかった。自分のため息で国内の二酸化炭素濃度が2%上がってしまったのではと自責の念に苛まれていたところだった。まぁ、こういう冗談を吐けているだけ本当に困ってはいないのだろう。
「んじゃ、もう行くわ」
おう、またな。と挨拶し別れた。これからバイトである。家で30分寝ることとする。

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