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要件定義の成功の鍵とは

はじめに

私は現在、全社CRMシステムの再構築プロジェクトに携わっています。ユーザーへの要求ヒアリングの開始から1年が経ち、リリースまでさらに約1年を要する長期プロジェクトですが、やっと要件定義が完了したところでの区切りとして振り返りと学びの共有をしたいと思います。
ここでは、私達のチームが想定していたROIを満たす要件定義を納期通りに完了させた成功要因について振り返っていきたいと思います。

要件定義を成功させた要因

論点整理の実施

プロジェクトを開始する前に、ステークホルダーにヒアリングしながら要求整理を行いましたが、まだこの時点では粒度が粗いため、要件定義の短期間で要求が実現できるのかどうかを判断したり、優先順位付けをして、視点が異なるステークホルダーの全員と合意形成していくことはとても難易度が高いことです。
また、期間が空くと新たな要求が発生したり、巻き込むステークホルダーも増えることで意見調整や新しい優先順位付けが必要になります。
そこで、技術的な制約や新たな要件で運用する上で課題になりそうな論点をあらかじめ整理することにしました。
システム開発を依頼するパートナー企業と一緒に要件定義を開始するまでに3カ月ほど期間があったことから、事前に業務フェーズ毎の担当者を決定して論点を洗い出し、課題を前もって解消していきました。

論点整理で得られた成果

成果をまとめると下記のことがあげられます。

  1. 目標の達成可能性を評価
    要求の実現方針を検討することで、要求のアウトカムが明確になり、本当にプロジェクトの目標を達成することが出来るかを再度評価した

  2. スコープの絞り込み
    要求や実現範囲のスコープを明確に定義することで、不要な機能や要素を排除した

  3. リスクの最小化
    潜在的なリスクや課題を事前に特定して対策を決定し、次のフェーズ以降の問題の発生を最小限に抑えた

  4. 意思決定スピード向上の基盤づくり
    チーム内で合意形成によって要件定義に向けたステークホルダーの意思決定スピードを向上させる基盤が築けた

  5. リソースの最適活用
    要件が明確になることで必要な人員のリソース確保が出来た

上記のことは要件定義で行うことも可能ですが、プロジェクトチームのリソースや、ステークホルダーとの交渉期間を考えると前倒しした効果は大きいと感じます。

論点整理の効果を高める方法

今回は論点整理のノウハウではなく、その効果を高めるために実施した取り組みについて書こうと思います。
取り組んだことは以下の2つになります。

取り組み①:担当を決定する基準の明確化
取り組み②:共有会によるチームワークの強化

取り組み①:担当を決定する基準の明確化

横断する領域は除いて、大まかに業務フェーズの「マーケティング」「インサイドセールス」「商談」「納品」「顧客対応」に分けて担当を決めることにしました。
担当を決める際に、全員の「Will:やりたいこと」を叶えられれば高いモチベーションで働くことは出来ますが、プロジェクトの成功可能性を高めることも必要です。そこで個人毎の「Will:やりたいこと」「Can:出来ること」「Must:やるべきこと」を整理して、可能な限り「Will」と「Can」を含む人、組織戦略的に今後「Can」にする必要がある人を優先的に検討しています。

Will  :意欲・興味がある
Can  :ドメイン知識・スキルがある、必要な業務工数が割ける
Must:プロジェクトのスコープ

「やりたいこと」と「出来ること」は違います。
担当業務では、誰とどのような合意をしていく必要があるのか?相手によって必要なドメイン知識やコミュニケーション設計が変わるのがイメージ出来るか?必要なテクニカルスキルはどのようなことか?
そしてそれらが「出来る」もしくは「本当に強化したいことなのか?」を細かく砕いて会話していくことで合意しやすくなります。

効果

判断基準があることで、期待を明確に伝達することが出来ますし、一定の納得感が得やすい方法です。
また、必ずしもその場では個人の希望が叶えられなくても今後のキャリアについて会話することで、周囲に自分の考えを伝えるきっかけとなり、アドバイスを貰えたり学びの機会も増えます。

取り組み②:共有会によるチームワークの強化

この期間に全3回にわたり、それぞれ3時間かけて論点アウトプット共有会を実施しました。

目的

プロジェクトチームの全員がプロジェクトの全体像を把握することで、個別論点では最適解でも全体を通すと矛盾が生じることがないように、一貫性と効率性を持った全体最適解を導き出すことが期待できます。
また、全員と情報を共有することで、意思決定のプロセスや結論の導き出し方を学び合い、質を向上させることができます。

ルール

共有会のルールとして、共有する時に必ず以下の観点を入れることを決めました。
発表者は、担当する論点のプロジェクトへの影響度を考えることで、そもそも本来解くべき論点か、今検討すべきか否かが明確になり、時間の使い方を効率化出来ます。また参加者は、プロジェクトの目的や課題から繋げて考えることで自分の担当以外の論点についても理解がしやすく、効果的な議論が出来ます。

・目的や課題の明確化
・QCD(品質、コスト、納期)への影響
・結論とその理由
 意思決定マトリックス(*1)を利用

*1:選択肢と評価軸毎にスコア化し、意思決定プロセスを視覚的に理解するための資料

意思決定マトリックスは、一般的には選択肢毎に評価項目を点数化する方法が用いられますが、業務フェーズ毎に論点を細かく砕いているため、論点によっては点数化ではなく「Must/Want」と「〇/✕」の組合せで整理しています。
点数化により評価基準を揃えることに労力をかけるのではなく、抽象度を上げて重要度と実現可能性を直感的に把握できるようにしています。

一般的な意思決定マトリックス
抽象度を上げた意思決定マトリックス

効果

意思決定のプロセスやアウトプットをフォーマット化して全体共有することで、意図した通り、一貫性と効率性を持った全体最適解を導き出すことが出来ました。
また、チーム全体が担当間でのコミュニケーションを大事に一体となってプロジェクトの課題に取り組む文化が生まれ、早い段階でチームとして機能することにも繋がりました。

まとめ

要件定義の成功要因は、事前に大きな課題となりそうな論点を整理する期間を設けることが出来たことや、担当者間で情報を共有する場を積極的に作ったことです。チーム全体がより協力しあい、プロジェクトの成功に向けて前進出来ました。
効果が大きかった背景として、事業の多さというプロジェクトの規模だけでなく、要求整理以降に参加したメンバーが多かったために個人毎の情報量の差が大きかったことも影響していると考えられます。ある程度規模の大きいプロジェクトやプロジェクト発足時にチームが結成される場合に参考になるかもしれません。
システム開発プロジェクトを行う皆様の参考になれば幸いです。


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