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白球と風 1119文字♯シロクマ文芸部

春と風が合わさったら、俺はあの時の事を思い出す。

高校三年間、唯一自力で掴んで出場した。
『センバツ高校野球』
春の甲子園。

野球をしてるなら、誰もが立ちたいと思う場所だと、俺は思っている。

そんな憧れの場所に立つ事が出来た俺は、グラウンドの中で一番高い場所から見える景色を見つめた。

「どうだった?甲子園のマウンドから見る景色は?」

キャッチャーの政宗が聞いてくる。

「……別に、いつもと変わんな……い訳ないな、、…人が多い。後は、特に変わらない。」

「ふーん。……何時もと変わりませんな〜」

「……そうかー」

本当にそう思ったんだ。

歓声や吹奏楽部の音は凄いけれど、夏に比べたらまだ弱い。

それに、県立高校の野球部が甲子園に行く事だって、今の高校野球では、とても貴重な事。

このチャンスと経験を、緊張でカチコチしたままなんて勿体ない。

俺達のチームは公立ながら善戦し、強豪私立相手に2-2で延長線に持ち込んだ。

延長線に慣れていた俺達のチームは、畳み掛ける様に攻撃をしたけれど、中々均衡は崩せなかった。

誰もが再戦になるだろうと思っていた15回裏、春の強風がグラウンドに吹きすさび、俺達の守備が乱れ、呆気なく私立のサヨナラとなって試合は終わった。

夏の甲子園にも行こう。

全員が夢で終わらない目標として信じて練習にあけくれ、磨いてきたけれど、俺達の最後の夏は、準決勝で打ち破れた。

俺達が破れた高校は決勝も勝利し甲子園へ。

そして甲子園ではベスト8の成績を残し、甲子園を終えた。


「あの時の事……、なんか、あっと言う間で、甲子園に立ってたの、嘘みたいだな……」 

俺は推薦をもらえ、大学へ進んでも野球を続ける。
将来の目標は、社会人野球で活躍する事だ。


卒業式を終え、静かになった帰り道を静かに歩いている時、春の風が吹いた。

まだ咲いたばかりの早咲の桜の花弁を揺らし、静かに大きく舞わせている。

「………楽しかったなー……」

俺は、そんな桜の花弁を見ながら、そっと呟いた。

良いことと悪いこと、辛いことを比べたら、悪いこと、辛いことの方が多いし、記憶にある。

辞めようって、何度思ったかわからない
それでも、そんな気持ちを何とか自分でなだめて、押し込めて部活に行くと、皆がふざけて笑ってる声が一番に聞こえてくる。

「尊(たける)!!おせーぞ」

元気で真っ直ぐな声が、何度も自分を引っ張り上げたくれた。

「……ありがとう、本当に、ありがとう」

後で、皆に改めてちゃんと伝えよう。
この気持ち、ちゃんと伝えなくちゃ。


春の風に吹かれて、押されて、俺はまた新しい場所に踏み込む。


時に強く、時に激しく、優しい春の風。

顔を上げると、広がる空。


早く家に帰って、皆に伝えなければ。

言葉は、自分の中にいっぱいだ。



終わり。



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