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花吹雪のいたずら #シロクマ文芸部

 花吹雪が舞い散る道を通勤できるとは思ってもいなかった。

 就活で訪れたときはもちろん、引っ越してきたときにも花はついていなかった。
 それが、こんなにも綺麗な桜並木だったなんて。

 春の強い風に乗って花びらがあちこちに舞う。
 それは雑然としているようで、けれどとても幻想的で美しい。現実世界とは切り離されていると錯覚しそうだ。
 桜はすぐにでも散ってしまうだろう。
 残されたわずかな桜を惜しむように、心なしかゆっくりと歩を進める。

 学生のときに友だちと見た桜とは少し違って見えるのは、きっと環境が変わったせいだけじゃない。
 まだ入社して数日だけれど、良いスタートがきれた気分。
 この見事な桜が、これから始まる社会人生活を祝福してくれているような気さえしてくる。
 大きな希望を抱いて――、なんてことはないけれど、それでも「がんばろ」と思える。


 決意を新たにしたそのとき、一際強く風が吹き付ける。
「う、わっ……!」

 突然、桜の花びらが嵐のように舞い上がり、私の視界をピンク色に染め上げた。驚きのあまり、顔を手で覆うしかない。
 耳にはビュウビュウと風の音が届いている。


 ほどなくして、音が収まった。
 すごい風だったなと手を下ろす。

「……は?」
 間抜けな声が漏れたのを自覚した。

 目の前には、見知らぬ光景が広がっている。
 いくら引っ越してきたばかりだからといっても、さっきまで歩いていた場所とはまったく違うことぐらいわかる。

 どういうこと? ここはどこ? 別世界? 幻想?
 まさか、これは桜の仕業?


 今はそんな夢見心地なことを考えている暇はない。


 新入社員が、入社数日で、無断欠勤。
 最悪のスタートだ。




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2024.04.19 もげら

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