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春への逃避 #シロクマ文芸部

 春の夢には終わりがない。
 目が覚めてもまだ夢の中にいるみたいに。

 ずっとぽかぽかとしていて、どこかふわふわとしている。
 朝になってベッドから起き上がって、朝ご飯を食べて、学校へ行く。
 授業を受けて、友だちと笑って、家に帰る。
 ご飯を食べて、お風呂に入って、ベッドに入る。
 そうしてまた朝になって、ベッドから抜け出す。


 窓の外は澄んだ青。
 太陽の光はキラキラと新緑を照らしている。

 同じような毎日でも、春はずっと夢の中にいるみたいだ。

 今までこんなにもうまくいっていただろうか? 春だからだろうか?

 夢だからかもしれない。夢だとしても、それでいい。
 心地が良くて、でもどこか現実味がない。時折、心の奥底に小さなざわめきを感じる。

 夏には照りつける太陽が現実を突きつけてくるだろう。
 ただ生きているというだけで罰を与えられているように、息をすることさえ苦しさを感じるに違いない。


 春の間は夢から覚めなくてもいい。むしろ、この春の夢はずっと覚めなくてもいい。
 ぽかぽか。
 心地良い。
 安息の地があるとするならば、きっと永遠に続く春の夢のようなものかもしれない。



「先生……、あの子は、あの子の意識は――、戻るんでしょうか……?」
 両親は、縋る思いで真っ白なベッドを見つめている。




#シロクマ文芸部 企画に参加しました。

春は眠い。
あ、春じゃなくても眠いか……



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2024.04.26 もげら

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