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【映画】海がきこえる/望月智充


タイトル:海がきこえる 1993年
監督:望月智充

十代の心の機微を描いた作品であり、間を活かしたライトなサウンドトラックが時代にも合っていて、ファッション含め違和感なく受け入れられる時代だと思う。しかし、ジブリの中でも一番スルーされがちな本作がまさかまさかの劇場上映が行われ、初日から三日間全て完売という状況に大変驚いた。というのも、この作品が好きという人に全く出会った事がなく(SNSでは当然見かけるけれど)、ジブリ好きな人からは敬遠されがちなこの作品がようやく日の目を見た感がある。僕が観た回もサービスデーという事もあって満席。見渡すと二十代と思われる若い世代がかなり多い。しかも平日の19:50という遅い時間の上映は、余程の事がない限り満席になる映画は稀ではないだろうか?それだけ多くの人を魅了する何かがあるんだろう。
当然ジブリというネームバリューは大きいのだけれど、先に挙げたようにジブリファンほど特異なこの映画を好む人は本当に少ない…というか聞いた事がない。そんなジブリ作品をル・シネマが取り上げるのも不思議に思う。
今回初めて劇場で観て思ったのは、家で観るよりも間を強く感じさせる余白の部分がより印象に残る。物語の間と強く結びつく音楽も素晴らしいが、台詞で語らない余白の部分が感情としっかり繋がっている。かつ出てくる登場人物がことごとく程よく嫌なやつ加減が絶妙で、ライトアップされた高知城を眺めながら里伽子を思い出す時の台詞のネガティブさは笑ってしまう。どうしてこれで好きになるのか不思議ではあるのだけど、それは原作の方がしっかり描いていたような気がする。

それにしても残念なのは、物語はこの続きがあって杜崎と里伽子の東京での暮らしが映画の続編として描かれなかった事。「海がきこえる」というタイトルにまつわる出来事も、続編の方でやっと登場するし、より複雑でヴィヴィッドな展開が作られなかったのは悔やまれる。というのも、宮崎駿が関わらずに若手作家だけで作ったこの作品を、ダメ出ししたのが宮崎駿と鈴木敏夫のふたりで、そこから「耳をすませば」に発展するのだけど、このふたりが一番この映画を理解していない。大人へと差し掛かる年齢の男女を描いたこの作品の辛辣さは、他のジブリ作品には無い。そこが孤高の存在として、成り立ってしまった悲劇でもある。この辺りの話は、ブルーレイのボーナスで関係者が愚痴大会として大盛り上がりしているので、気になる人は必見。輸入盤は安いのでそちらを手に入れるのもあり。
いやー、常に生きづらさを抱えながら目標に向かって突き進む里伽子の信念の強さと揺らぎ、そしてそれを受け止めきれない杜崎と松野の不器用な奥手さが時代を超えて突き刺さるんだろうな。生きづらさや悔いが残る人ほど、この映画はザクザクと刺さってくる何かがあるんだろう。彼ら彼女らの行動に共感は出来なくとも、その感情の揺らぎが心を捉えて離さない理由なのかもなんて感じてしまう今日この頃。
とりあえずこれを機にサントラをアナログで出してくれー!他の作品出しといてこれを出さないのはおかしいでしょ?


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