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【映画】モナ・リザ・アンド・ザ ・ブラッド・ムーン Mona Lisa and the blood moon/アナ・リリ・アミリプール


タイトル:モナ・リザ・アンド・ザ ・ブラッド・ムーン Mona Lisa and the blood moon 2022年
監督/アナ・リリ・アミリプール

私が個人的にに望んでいたのは、ニューオーリンズを舞台にした、このキャラクターを中心としたダーティでホームグロウンなおとぎ話を作りたかったということです。
狼男という原型にまつわる何かが私の中にあって、月との原始的なつながりや、自分を超パワフルにしてくれる自分の中の何かとのつながりがあった。もちろん、モナリザにはバックストーリーがあり、彼女にできることには理由がある。
だから、彼女のことを考え始めました。この孤立し隔絶されたタイプのキャラクターは、どんな形にも当てはまらないし、どんな形にも当てはまらず、歓迎されたこともない。だから、生まれたばかりの赤ん坊のような目を自分に与えて、もっと遊び心があって楽観的な方法で世界を再発見できるようにするために、彼女を登場させました。
このカーニバルのような人生の狂気の冒険の中で、私は喜びを感じたかった。それから私は世界を作り始めました。
アナ・リリ・アミリプール

https://scriptmag.com/interviews-features/an-unquenchable-thirst-for-freedom-an-interview-with-mona-lisa-and-the-blood-moon-writer-director-ana-lily-amirpour

もしこれが邦画だったらタイトルやポスターヴィジュアルの印象から、ハズレだろうなと興味が沸かなかったかもしれない。そういった前提であまり期待せずに観たのだけれども、意外と程よく余韻が残る映画だった。
スリラー映画みたいな始まりから、話の展開が一体どこに向かうのか見当もつかない。単純にジャンル映画として括ることの出来ないというか、物語の進行と共に登場人物たちの内面が少しずつ露わにあるにつれて、映画の様相が変化していく。冒頭からおどろおどろしいサイキックなホラーが始まるかと思いきや、家族もの、クライムなど思い返せばモリモリな内容。さらにニューオリンズという場所柄、特徴的な建物や一番の観光名所バーボンストリートのポールダンスの場末感や、柳の木やセリフで登場する湿地バイユーなど登場人物たちと同じくらい存在感をしめす。まさにガンボな映画ではあるのだけど、入り混じるというよりは、直線的にそれらが配置されていて、情報量が多い割にそれぞれが結構すんなりと入ってくる。
まあモナ・リザ・リーのサイキックな人を操る力がどのようにして生まれたのかの理由はなくても、彼女を一丸となって守る人たちと、阻止する人たちの対立構造はわかりやすいカタルシスを生んでいた。
そんなモナ・リザ・リーのバックグラウンドにあるのは、先日公開された「ソウルに帰る」や「ブルー・バイユー」にもあった韓国国外への養子縁組がちらりと映し出される。主に民主化以前の韓国で、経済的な理由から幼いうちに海外へ送り出されるケースがあり、本作では養子縁組に失敗して紆余曲折を経て精神病院に隔離されたのがモナ・リザ・リーの出自であった。

劇中でこの出自についてあまり多くは語られていないのだけれど、韓国系のキャラクターというストレンジャーな存在と、監督自身のイラン系アメリカ人という出自に重ね合わせているのも、違和感を感じさせない要因だったと思う。
映画の中で音楽の使い方がかなり主張が強い印象があったが、この辺りは「ソウルに帰る」に近い雰囲気があった。
それにしてもモナ・リザ・リー役のチョン・ジョンソの存在感は惹きつけられるものがある。「バーニング」での役所もかなり魅力的だったけれど、見返すとその頃よりも洗練された雰囲気が醸し出されていて、ひたすら無表情なのにプリミティブな雰囲気がマッチしている。劇中の社会からは浮いているが、関わっていく人たちの運命を変えていく姿が映画の中で違和感なくぴったりと収まっているのはすごい。ガレージロックのコンピレーション「Back to the grave」をもじった「Rave to the grave」のTシャツに、監督のこだわりを感じる。
そして腹に肉の付いた中年のポールダンサー役のケイト・ハドソンのあけっぴろげな雰囲気も良かった。「あの頃ペニーレインと」での高嶺の花な雰囲気は一切ないものの、女手一つで子供を育てる日銭に欲する姿は、背に腹を変えられない生活を送るシングルマザーの姿がマッチしていた。酷い目にあいながらも、ラストでの出来事はシンプルだけどスッキリする。
ハーモニー・コリンの映画に出てきそうなファズの何か悪さを起こしそうで意外と良いやつなキャラクターや、脚を引き摺りながら右往左往するハロルド巡査など、配役も中々に良い味をだしていた。
込み入りすぎずシンプルなストーリーテリングが公を奏したとも言えるし、少しこじんまりとしてるとも言える。悪いやつがあまり出てこずワイワイやってる感じは「ブックスマート」あたりに近いのかも。
夜とネオン、大きく映し出された月などデザインのルックもかなり優れた映画だったので、今後の作品も期待したい監督だった。

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