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【短編】警鐘

国立生態系調査センター。ある研究が実を結びつつあった。

「中田教授。記者会見は来月3日でよろしいでしょうか」
「ああ、会場は帝産大学で頼む」

ついにやった。苦節30年。私は人生をこの研究に捧げて来たと言っても過言ではない。

止まらない環境破壊は生態系に悪影響を及ぼし、やがては人類にしっぺ返しが来るであろう事は、理解されるようになって久しい。

私、中田聡は植林の分野で今回画期的とも言える研究成果をあげた。
特定の樹木の成長スピードを5倍にする薬液の開発に成功したのだ。
実用化すれば世界中の森林を守る活動に多大な貢献が出来る事だろう。これも帝産大学助教時代から共に研究を行ってきた正木博士の力があってこそだ。
だから記者会見は必ず帝産大学で開きたい。

「しかし教授。帝産は最近良からぬ噂を聞きますよね。あそこでホントに会見を行って大丈夫でしょうか。避けておくのが無難かと」
「吉田君。君も私と正木さんの関係は知っているだろう。帝産のイメージ改善の手助けをしたいんだ」

帝産大学は近頃、理事長による補助金水増し問題で雑誌やワイドショーを賑わせていた。吉田助手が危惧するのも無理はない。しかし、だからといって私と正木さんの関係性は今も昔も変わらないのだ。

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