見出し画像

八月の砲声(歴史本:バーバラ・W・タックマン)【読書紹介です。そして私は頭のおかしい経営者です「ひえっ。ち、ちがうんです!」】

女性歴史家、バーバラ・W・タックマンが書いた歴史本。
第1次大戦がなぜ起こったか?
そして最初の2か月でその後の戦況が決定づけられたころの話を書いています。

第1次大戦がなぜ起こったかというのは、歴史家AJPテイラーの本や、ウィキなどにもたくさん書いてあるのですが、その中では一番丁寧な書き方をしていると思います。
特にロシアとフランスの裏事情は、普通あんまり紹介されないので、貴重だと感じます。

ドキュメンタリー風の本作はそのまま三時間映画の脚本にできそうな感じですが、誰もやりませんね。2014年くらいに大作映画来るかと思ったのですが来ませんでした。売れないんだなー。

よく物事を始めるときには、Aプランだけでなく、うまく行かなかったときのBプランとかも最低でもひとつは考えておけとかよく言われますが、
良くある失敗例としてはAプランしか考えておらず、そのあと、うまく行かなくて詰んだ。というのがあります。
日本人だからか、それとも現代人だからなのか、そういう例を知る機会が多いわけですが、

ざっと紹介しておきますか。
まずはドイツシュリーフェンプランから。
もう紹介の必要はないくらい知っている人もいると思いますが、
要は
「戦争になったらフランスとロシアの同盟により、東西同時に攻撃される」
「これに勝つには先制一撃でフランスを倒し、そのあとにロシアとじっくり戦う」

「これしかない」
という考え方です。
ロシアとだけ戦うとか、そういう選択肢はなく、そもそも露仏同盟を許してしまったこと事態が痛恨だったのですが、
この計画しか用意してなかったので、どうしてもロシアともめたら、こっちから理由や大義もなくてもフランスに仕掛けなければいけなかった。
しかも、
「フランス国境に直接向かうと迎撃されるから、ベルギーを迂回して北周りで侵攻する」
「ベルギーは中立国なので国際社会は激怒するだろうが、知るかボケ。勝てばいいんだ勝てば」
の精神でやったら、イギリスまで敵に回ったわけですね。
そもそも必要に迫られてもいないのにドイツ海軍を強大化させ、英国海軍の覇権に挑んでしまったことが痛恨事なんですが。
というわけで、オーストリアが皇太子の復讐をするのをちょっと援護するだけで良かったのに、気がつけば三大国をすべて敵に回した欧州大戦になってしまったわけです。

一方、フランスにはプラン17という計画がありました。
実はこの時代のフランス軍は「精神の力は銃弾に勝る」とか言っていた時代らしく、
とりあえず集結してドイツ領方面に突撃するという「なんとなく計画」を立てていたのです。
はたして緒戦で攻めたフランス軍は機関銃により壊滅。
フランス軍の精神論は緒戦であえなく散華したのです。
しかも回転ドア方式で迫るドイツ軍に、プレス機にかけられそうになったので、まずは順当に敗走しました。

イギリスは、当初、戦争計画がなく、とりあえずフランスに陸軍を派遣して、フランス軍と一緒に戦う、くらいの大雑把な計画しかありませんでした。
なので泥縄で準備をすることになります。後は想像してください。

ロシアは軍隊の近代化費用を、わけのわからないことに使い込んだり、近代化そのものを反対したりで、その軍隊は列強の中では相変わらず見劣りのするものでした。
10年前に日本と戦ったので、経験値は高かったはずですが、やはりというべきか、それが活かせた点は多くありません。というかありません。
ただ同盟国フランスを支援するためにしゃにむに突進したことが後々で良い結果を生んだのではありますが、ロシア軍はドイツ東部軍の反撃で壊滅的な打撃を受けたのでした。

オーストリアだけはこの本の中で詳細に書かれていないですね。
セルビアも。
事の初めはこの国々のはずだったのですが。
著者はここを書くと本の厚みが2倍になるからという理由で割愛したようです。

他にドイツの巡洋戦艦がトルコに逃げ込んで、トルコがドイツ側で参戦するきっかけになったというエピソードもあります。これでロシアと英仏との連絡通路の大きな部分がなくなってしまったわけです。

その後、開戦一か月後にパリの近くのマルヌ川まで後退したフランス軍は、機を見て一斉反撃に移ります。ここでドイツ軍は敗退し、少し下がって塹壕を築く。
その塹壕での戦いが以後4年続くわけです。
第1次大戦という戦争の性格は、最初の1か月でこのように決定づけられました。
ドイツ軍の「まずは一撃でフランスを陥落させる」という野心的計画は失敗に終わり、
代替の計画もないので、ずるずると戦争を続ける以外にやりようがなくなってしまったんですね。

そしてそんなドタバタを、もっと丁寧に本書では書いてあります。
タンネンベルクの戦いで、上官からの命令をことごとく無視して、戦うなと言われると戦い、後退するなと言われると撤退する、天の邪鬼のフォンフランソワ将軍とかもね。

***
たまに偉い人がこの本を読んだりしてニュースになることがあります。
誰だったっけ?

かつてブッシュJr大統領がイラク開戦2年後くらいにビスマルク伝を読んでいた時は膝が抜けそうになりました。
開戦する前とかに読んどけよとか思ったんですが、非専門分野はみんなそうだもんな。

大丈夫だ、ドイツくん、君だけじゃないさ。みんな一緒さ。
地球はひとつ。僕たちはみんな同じなんだ。
人類でBプランを考えられる連中なんて、頭のおかしい経営者くらいさ。

#読書感想文 #歴史 #世界史 #第1次大戦 #緒戦 #開戦 #作戦  
#バーバラ・W・タックマン   #帝政ドイツ #フランス #イギリス  
#帝政ロシア #Aプランのみ #失敗の歴史 #Bプランの重要性  
#1914年 #西部戦線 #マルヌの戦い #ベルギー侵攻  
#シュリーフェンプラン #プラン17 #戦略的逆説  

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?