記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男(Darkest Hour)【誰も僕が映画感想を語っていることに気がつかなかったんだ】(2017年:ゲイリーオールドマン主演)

何年か前にチャーチルブームが来てたような気がするけど、
もしかしてこれのせい?

チャーチルと言えば、WW2での連合国の指導者のひとりで、
まあ現在では民主主義の英雄っぽい立ち位置の人として知られています。
日本人にとっては怨敵かもしれませんが、
まあ英国にはそれほどではないのか。

ただ英国面(じゃなかった英国のダークサイド)を代表する人物としても
紹介されることしばしば。
要するに光と影を併せ持つ人物としても評価されています。
ブリカスの話題が出るとなぜかこの人もサムネで一緒に出てきます。
ディズレーリとかウェリントンとかは出ないのだな。なぜだ!

そんな人物がもっとも光輝やいた場面を切り取った映画。
つまり1940年6月。
フランス降伏後、
単独でもナチスと戦い続ける決心を表明したスピーチの場面です。

邦題は適当感爆裂で、原題のDarkest Hourの方が洗練されています。
私はそっちの方がスキデスネ。
なんで変なタイトルにしちゃうんでしょうか?
ズバリじゃないと売れないと思ったんかな?

それにしてもこの映画、派手な合成画像とかはほぼないですね。
主演ゲイリーオールドマンもレガシー技術であるメイクで演技してます。

ゲイリーオールドマンが演じているからには、正義のミカタでは無論なく、
といって普通の悪人役でももちろんないし、
強さだけではなくむしろ弱さも魅力として見せつけてくる。

タイピストに「間違えるな」と怒鳴るシーンとかは、
「最後の12日間」冒頭のヒトラーのシーンとは対照的です。
これ制作スタッフは意図してやってるんでしょうね。
要するにイヤな上司なんです。

徹底抗戦を主張して首相になったばかりですが、
はやくもフランスが降伏してしまい非常にやばい。
(ストーリー的には「ダンケルク」の後になりますけど)

すでにして(レタスの賞味期限より短いと言われた)
トラス首相くらい追い込まれています。
このままではトラスのギネス記録を超えてしまう。(時代が違うけど)
なおも抗戦を主張するチャーチルですが、周囲は「そろそろ引き時だろ」

戦争継続の莫大な戦費は、今度こそ大英帝国の崩壊を意味する。
第1次大戦の勝利も経済的には首の皮一枚で生き残った状態。
勝てばいいというものではなく、戦うことすら非常にまずい。
というのが、大英帝国の偽らざる実情だったのです。
英国の保守派が想像を絶するほど宥和派だったのは、
そういう理由もあるのです。
(実際に第2次大戦後、大英帝国は崩壊しました)

「しかしナチスから仕掛けてくるのだから戦うしかないだろ」
という激を飛ばしたチャーチルの立場ですが、閣内では四面楚歌。
古株チェンバレン(前首相)には
イタリア外務大臣との折衝まで確約される首相。
要するに敗北を認めて講和交渉の打診をしろ、
と約束させられたということです。

さすがのチャーチルもしょぼくれていたところ、
「キングスピーチ」でも出てくる国王陛下が首相官邸を訪れます。

「キングスピーチ」で精神的成長を遂げた国王陛下。
陛下自身の体験に基づくアドバイス?を臣下に語ります。

「車を降りて町を歩け。名もない庶民の声を聞くんだ」

チャーチルは貴族なのでロールスロイス通勤だったのですが、
このとき初めてロンドン地下鉄に乗ってみました。
(この辺は演出なんでしょうが)
まあ、顔バレしましたよ。当たり前ですね。

でもですね。貧しい通勤電車組は、意外と意気軒高。
(以降はうろ覚えなんですけど、こんな感じ)

貧「まあ、ヒトラーが来たら、なんとかします」
婆「戦えないかもしれないけど、嫌がらせのひとつくらいしてやりますわ」

チャ「そうですか。まあ仮にの話ですけど、イタリアが交渉したいとか」

周「「「ダメです!!」」」

貧「武器がなくても戦いますよ。空襲なんてどうってことありません」
婆「お願いですから、降伏するのだけはやめてください!」

チャ「・・・もちろんです。
政府は徹底抗戦の構えを崩していません。ご安心を」

おいおい、貧しい庶民と会話しろって言ったって、
たった数人と話しただけで判断材料にしちゃうの? 
とかは思いましたけど、

まあでも。アツイ場面ですよね。

映画はプロパガンダでいいんです。金がかかるし。
だけど宣伝であっても、考えられる限り最高の演出をして、
人の心を動かして見せるのが、映画職人の心意気。

戻ってきたチャーチルは議会で演説をぶちます。
全体的に光量を押さえた暗い場面が続く映画なのに、
この場面だけはスポットライトで明るく照らされます。

「我々はフランスで戦う、我々は海と大洋で戦う、
我々は日々自信を強め、力を強め、空で戦う。
我々はいかなる犠牲を払おうとも、自らの島を守る。
我々は海岸で戦う、我々は水際で戦う、
我々は野原と街頭で戦う、我々は丘で戦う。我々は決して降伏しない」

古株チェンバレンがついに白いポケットチーフを出したのを合図に、
議会全体が熱狂して白いチーフを放り上げ始めます。
白い光が乱舞する中、チャーチルは暗闇の中へ下がっていきます。
ここで終わり。

英国には武器はありました。アメリカからもらうこともできます。
問題はやる気があるかどうか。
そのいちばん足りないところを、チャーチルの演説が補ったのです。

後は皆さんの知ってる通りです。

****

「日本権力構造の謎」を90年代に書いたカレルヴァンヴォルフレンは、
「日本の民主主義はまだ可能性の段階に留まる」とまで述べています。
その理由のひとつとして、
「日本人が政治家を信用しないから」というのを挙げています。
政治家と言えば(腐敗している)(信用できない)というイメージばかりが
先行してしまう日本社会ですが、

実のところ、社会の舵取りができるのは政治家しかいません。
政治家が決断を下さない限り、社会は決して変わりません。良くも悪くも。

上とは真逆の決断を下した映画ですが、

こんなのもあります。2015年版「日本のいちばん長い日」
この映画の中では昭和天皇が断固たる決断を下していますね。
この時の昭和天皇はやはり政治家です。象徴ではありません。

あるいは南部白人出身なのに、ケネディの公民権運動を引き継いだ男。

2016年作。「LBJ」リンドンジョンソン大統領の物語。
政治的な選択肢だったのかもしれませんが、結果的に社会は変わりました。

政治家がいない限り、社会は決して変えられません。良くも悪くも。
政治家をいつも不信の眼差しで見てしまう日本は、
変化する活力に乏しい静的な社会なのではないでしょうか?
これでは良くなるはずがありません。

政治家を信任しないから、政治家に変える力を与えないから、
官僚が実質独裁する社会に堕してしまう。
そして官僚は、変化させるための権限を持ちえません。
だからこそ常に先例を求めます。
官僚にできることは、過去の経験の延長線でやることだけ。

このようなウォルフレンの指摘は、
まだ繁栄していた80年代や90年代に書かれたものですが、
現在も課題は変わってないと思います。

私見ですが、政治家は悪人で良いのです。
悪人だからこそ取り引きができます。(塩野七海みたいな感じで)

さらにどちらかというと民主主義国の選挙民は、
それ自身が権力を持った別の政治家集団でもあります。
悪の上前をはねる更なる悪であることを、
自分たちに期待しても良いのではないでしょうか?

手段としての悪ではなく、
結果としての善を求めてみるのは、どうでしょうか?

そんな感じで「政治家の映画」を紹介してみました。
今回はサブ紹介で他3本も一緒に紹介してます。

#映画感想文  
#ネタバレ
#歴史 #政治 #政治家 #第二次大戦 #現代政治

この記事が参加している募集

#映画感想文

65,899件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?