見出し画像

花の名前を教えないのは、「思い出にしたくない」希望だと思う(映画「花束みたいな恋をした」の感想)


「女の子に花の名前を教わると男の子はその花を見るたび、一生その子のことを思い出しちゃうんだって」

「花束みたいな恋をした」を女友達と観に行ってきた。
その女友達とは、京王線沿いの居酒屋でお互い一人で飲んでいるときに出会い、同い年で、家が近所で、瞬く間に仲良くなった。(男女だったら付き合えてたかも……)
そんな彼女が最近失恋したと聞き、傷口に塩を塗るであろうこの映画を一緒に観に行こうと試しに提案してみたら、二つ返事でOKしてくれた。
京王線沿いに過去住んでいて、失恋したて。この映画を、一緒に観てくれる相手として、これほど相応しい相手はいなかった。

結果、バチクソに泣いた。傷、えぐられまくった。

直近失恋したとか、同棲してたときの記憶とかぶるとか、
もう引っ越してしまったけど、明大前の雰囲気が懐かしくてエモすぎるとか、作中に出てくる音楽や本が全て好きなものだったりとか、色々感情移入する要素はあったけど、
一度でも好きな人と付き合って、別れたことを経験した人は、誰でも共感できる映画なんだと思う。ここまで、共感性を煽る映画ってすごいなあ。

▼あらすじ

東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った 山音麦 (菅田将暉)と 八谷絹 (有村架純)。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。まばゆいほどの煌めきと、胸を締め付ける切なさに包まれた〈恋する月日のすべて〉を、唯一無二の言葉で紡ぐ忘れられない5年間。最高峰のスタッフとキャストが贈る、不滅のラブストーリー誕生!
──これはきっと、私たちの物語。

――映画「花束みたいな恋をした」公式サイトより引用


以下ネタバレを含みます。



そもそもこの話は既に別れた2人が偶然カフェで出くわすところから始まる。お互い別の恋人がいる状態で出くわし、出会った回想になるという、なんとも残酷な演出。だって5年後、「部屋にピアス落としちゃったかも〜」って言っている別の女がいるのに、「両親が会いたがっててさあ」って言っている別の男がいるのに、超甘酸っぱい恋愛が始まるんだよ。辛い。

回想。明大前で終電を逃した2人は、居酒屋に行き、お笑い、本、音楽、映画、好きなものが似ていて、「じゃんけんのパー(紙)がグー(石)に勝つのっておかしくない?」という感性すら似ていることに興奮する。

雨の中、麦くんのアパートに行き、本棚を見て、「ほぼうちの本棚じゃん」と盛り上がり、一緒に焼きおにぎりを食べる。麦くんのスケッチブックを勝手に見た絹ちゃんは、これを仕事にできたらなって、まあ冗談ですけど、と照れながらいう麦くんに、真っ直ぐに「私、山音さんの絵、好きです。」と言う。
こんなにも趣味が合う、かつ、可愛い女の子から、自分の描いた絵を褒められたら、4回反芻してしまうのも分かるし、一瞬で恋に落ちる。自分と同じ感性の人から、自分の作品を褒められるって、どれだけ嬉しいんだろう、私も、お笑い、本、音楽、映画、好きなものが似ている人に、「もぐさんの文章、好きです。」と言われたら、一瞬で恋に落ちる自信があるぞ。
※たとえ菅田将暉の顔面でなくても。

初回のカラオケで、

って言って絹ちゃんが麦くんを見て、
麦くんがマイクを持って、

「「知らないと君が言う、時計の針が止まって見える現象のことだよ」」

と2人で歌うシーン、胸がギシギシ痛んだ。

11月に失恋した男、マニアックな、アルバムにしか入っていないアニソンを一緒に歌ってくれたことで、恋に落ちたし、どんなバンドの話も、本や漫画、映画の話も被って、運命!ってなった。きのこ帝国も大好きなことも相俟って、カラオケのシーンの記憶が被りすぎて、こんな幸せな冒頭で泣く意味わからん女になってしまった。くそう。
3回目のデートで順調にお付き合いを決めた2人。3回目のデートで振られた私の傷をガンガンえぐってくる。ちなみに「ただの友達になってしまうっていう説あるし」「次は絶対告白しようって」という予告だけで泣きそうだったよ。

絹ちゃんは就活を頑張るけど、圧迫面接で精神がズタズタになる。
後に明らかになるが、両親は広告代理店のエリート。お父さんはオリンピック関連の仕事をしているから電通の設定の模様。実家も超豪邸。
うちでは、新卒で就職しなかったら、反社会勢力とみなされる。家で色々言われる、という絹ちゃんに、麦くんは「一緒に暮らそう」という。
ちなみにこの恋、巻き戻せるとしたら、ここで一緒に住まないほうが良かったなって思った。(とはいえ同棲しないと映画始まんないんだけど)
嫌なことなんてしなくていい、とイラストレーターになりたい麦くんは、夢を振りかざすけど、この言葉、特大ブーメランで後ほど返ってくるのだ。

フリーター同士の同棲シーン、初めはクリスマスプレゼント渡し合ったり、一緒に漫画読んで泣いたり、ほっこり可愛い感じなのだが、絹ちゃんのご両親や、麦くんのお父さんが、同棲している2人の部屋にきたり、麦くんのイラストの仕事がどんどん単価が安くなってしまったり、現実がどんどん押し寄せてくる。そんな中、麦くんは就職する、と言い出す。初めは怪訝そうな顔をする絹ちゃんだが、何も変わらない、生活するために働くだけ、と麦くんに丸め込まれ、絹ちゃんも就活を再開する。そして絹ちゃんは、簿記2級の資格をとって、医療事務っぽい仕事に内定を貰う。麦くんの就活は難航。やっともらったEC関連の物流の仕事は、5時に仕事が終わる、と言っていたけど、お決まりのように、会社で寝泊まりするシーンも出てくる。

ここから怒涛のようにすれ違っていく2人がもう……辛かった。是非劇場で見てほしい。
バキバキ働く故に絹ちゃんと舞台に行く約束も破ってしまう麦くんと、もっと一緒にいる楽しい時間がほしい絹ちゃん。
それまで自分を有村架純と仮定して、菅田将暉との恋愛を楽しんでたけど、
バキバキ働いて、漫画が読めなくなって、ビジネス書読んじゃう麦くんの方に感情移入してしまった。
私も大学4年〜社会人1年目のとき付き合っていた彼氏と半同棲状態だったのだが、彼は働いていた会社が潰れ、暫くニートで、アルバイトをし始めてからはフリーターだった。私が大学生のうちは、一緒にいると楽しい、それだけで良かったけど。
代理店に入ってからの私は、極貧の学生時代を終えて、ほぼ残業代だったけど、普通の新卒の倍以上稼ぐようになって、働き詰めで一緒にいる時間が減った。
彼が正社員でないことを、恥ずかしい、お金の価値観が合わない、と思うようになったのは、社会に出てからだった。麦くんが絹ちゃんに、将来のビジョンがないのに、やりたいことを仕事にしたい、なんて、甘いし、聞いてられないと思ってしまう気持ち、めちゃくちゃ共感してしまった。
結婚観も、この2人は真逆で、しっかり稼いではやく結婚したい麦くんと、3ヶ月もレスなのによく結婚とか言えるな、と思う絹ちゃん。
普通結婚したい、って思うのは女性が速いパターンが多い気がするけど、それが逆なのも現代っぽくて面白かったな。


すれ違いにすれ違いまくった2人は、仲間内の結婚式のあと、別れを決心する。この別れへの考え方が、昔みたいにめちゃくちゃシンクロしているのが悲しい。
あんなに価値観がずれてしまった2人が、最後の最後だけ、同じ気持ちでいるなんて。
結婚式の後、観覧車に乗って、カラオケに行って、最後に付き合うことになった思い出のファミレスのジョナサンで、2人は別れ話を始める。
そこで出会ったばかりの自分たちとそっくりなカップルを見て、2人はボロボロ泣くのだ。堪らず外に出た絹ちゃんを追いかけた麦くんは、彼女を抱きしめる。
ここ、むせび泣いた。大人になるって悲しいよね。
夢も、理想も、現実に全部かき消されていく。昔あった夢も、理想も、少しずつ忘れていく。悲しい。

そのあと、冒頭のカフェで再会したシーンに戻って、2人は一言もかわさないまま、別々の道を歩いていく、だけど、後手でお互いバイバイしていた。別々の未来だけど、希望があって、いい別れ方だったな。


「女の子に花の名前を教わると男の子はその花を見るたび、一生その子のことを思い出しちゃうんだって」

「じゃあ、教えてよ」

「どうかな〜」


教えて、と迫る麦くんに、結局、花の名前を教えない絹ちゃん。
麦くんは、毎年咲く花ではなく、今まで、一緒に楽しんできたサブカルチャー、一つ一つの要素で、絹ちゃんのことを思い出す。

初めて会った日、「クロノスタシスって知ってる?」と一緒に歌い、歌詞通りにスリーファイブオーエムエルの缶ビール買って夜の散歩をした、「きのこ帝国」が活動休止したこと。

絹ちゃんが好きな作家で名前を挙げ、「ピクニック」の良さが分からない偉い人は価値がない、と切り捨て、久しぶりの作品発表を一緒に喜んだ「今村夏子」が芥川賞を獲ったこと。

花の名前が思い出になるように、一緒に楽しんだカルチャーが思い出となり、いつもふと、思い出してしまうような恋が、タイトルの「花束みたいな恋をした」の意味なんじゃないかな、と思った。
それだけ長い間一緒にいて、沢山の作品や価値観を共有した人のことを、思い出さないわけがない。

絹ちゃんはなぜ、花の名前を教えなかったのか。

彼女は花の名前を教わると、一生思い出してしまう、という話を好きだったブロガーさんから知る。「恋愛生存率」というブログは、「恋愛は終わりの始まり」だけど、「数%に満たない生存率の恋愛をわたしは生き残る」と書いてあったが、その一年後に、そのブロガーさんは自ら命を絶った。

これは諸説あると思うが、私は、花の名前を教えないのは、「思い出にしたくない」という希望だったと思っている。

僕は君と僕の事をずっと思い出すことはない
だってさよならしないなら思い出にならないから

というBUMPの「飴玉の唄」を思い出した。
この文章を書きながら、久々にこの曲聞いたけど、やっぱり藤原基央は天才だよね。
全サブカル女子がガチ恋通ってると思うけど、私も漏れなくPONTSUKA聴いてたし、藤原基央と結婚する気でいたよ。


これからも一緒にいるから、思い出さなくていい。「数%に満たない生存率の恋愛」の、奇跡の生存を信じたから、だと思っている。

最後、麦くんが「絹ちゃんと食べた焼きそばパンをまた食べたい」と思ってストリートビューを開く。
そのパン屋さんはとっくに潰れていて、絹ちゃんが報告していたのだけど、忙しかった麦くんは「駅前のパン屋で買えばいいじゃん」とあしらってしまう。それゆえ、その会話を覚えておらず、呑気に「また食べたいな」と思っているところが、仕事忙しいとき、男性のプライベートの記憶力、ニワトリ以下問題を経験したことのある全女子の怒りを買うことだろう。
しかし、パン屋さんはないけど、そのストリートビューには、楽しそうに歩く2人が写っている、という可愛いラストだった。

本当にいい映画だった。
すれ違うところ、喧嘩するところがリアルで心に迫るものがあって、本当に精神的に来た。
是非沢山の人に観てほしいなあ。
あと、就活する前の菅田将暉のビジュアル、100点満点です、ありがとうございます!ごちそうさまでした!

∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵
1週間に1〜2本投稿しています。
フォロー、スキ、コメントをいただけると
とても嬉しいです!🥰
∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵‥∴‥∴‥∵‥∴‥∵

▼「生きているだけで、愛。」の感想

▼映画「劇場」の感想はこちら


この記事が参加している募集

スキしてみて

映画感想文

やさぐれた28歳女に、1杯奢ってやってもいいよ、という優しいお方は、サポート頂けると嬉しいです😌😌😌🍻✨