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Japanese Iced Coffee

一時期に比べて少し涼しくはなってきましたが、まだ暑い日が続きますね。
こんな時期に飲みたくなるのが「アイスコーヒー」です。

私も、独特な風味を持つスマトラを、深煎りにして濃く淹れてアイスコーヒーにするのが大好きです。
ちなみにちょっとお高いですが、ワイニープロセスの浅煎りの豆を多めに使って淹れたアイスコーヒーは、実にフルーティーでお勧めです。
更にお高いですが、ゲイシャの浅煎りをアイスにした日には、一般的なコーヒーの概念が吹き飛ぶくらいフルーティーですので、一度お試しください。
※アイスにするなら、ホットより多め(最低でも2割増しくらい)の豆で、気持ちゆっくり目に、少なめに落とすことが大事。絶対ケチらない。大事です。

ところで、この「アイスコーヒー」。
日本発祥であるという説があることは御存知でしょうか。
今では世界各地のカフェでメニューとして見られますが本当なんでしょうか。
というわけで、今日は「アイスコーヒーの歴史」について少し追ってみたいと思います。

①海外にアイスコーヒーはなかったのか?

これについては諸説あるのですが、アイスコーヒーに相当する飲料が飲まれたのは、北アフリカのアルジェリアが最初と言われています。
アルジェリアの街マサグランで、現地の人々がホットコーヒーに水を入れ、冷やして飲む習慣を持っていたとのこと。
現地では「カセーレジョール」と呼ばれていたそうです。
これが19世紀半ばごろのお話。

今でもフランスでは、街の名を取った「マサグラン(Mazagran)」という飲料

が残っています。
一般的には「濃く淹れたコーヒーを水で薄める」というスタイルですが、イベリア半島やオーストリアでは蒸留酒やワインなどを加えた同様のスタイルのメニューも存在します。
コーヒーというよりカクテルに近い要素がありますね。

ただ、元々あまり「冷えた飲料を飲む」という習慣は一般的ではなかったこともあり、これが爆発的に普及することはありませんでした。
これは、ヨーロッパを含め、多くの国では衛生上冷えた状態の水を飲む習慣が乏しかったから、という説があります。

ちなみに、イタリアでも1950年代にはアイスコーヒーを飲む習慣が存在したようです。
1953年公開の「ローマの休日」のワンシーンで、アイスコーヒーを飲むシーンがあります。

判然としませんが、熱いエスプレッソと砂糖と氷をシェイカーに数個入れてシェイクし泡立てる「カフェ・シェケラート」ではないかと思われます。
(エスプレッソをそのまま冷やすのが「カフェ・フレッド」ですが、それにしては量が多いです)

②日本のアイスコーヒーの歴史

さて、では日本におけるアイスコーヒーの歴史とはどんなものなのでしょう。
アルジェリアよりは少し遅いのですが、日本でも比較的早い段階からアイスコーヒーは飲まれていました。

当初の日本に伝わったコーヒーはやはりホットだったようで、それを日本の気候に合わせて冷やして飲んだようです。
1800年代末、明治時代には「冷やしコーヒー」なるメニューが存在していました。

この「冷やしコーヒー」、どのように作っていたかというと…
・普通にホットで淹れる
・井戸水にサーバーをつけて冷やす

という手順を踏んでいたそうです。
ここは、水で薄めるマサグランとは異なる点ですね。

その後、日本ではこの「冷やし」から、サーバーにあらかじめ氷を入れておき、そこにドリップするスタイルに変化していきます。
これは日本独特のスタイルのようで、今でも「Japanese Iced Coffee」と呼ばれています。

「アイスコーヒーは日本発祥」というお話は、もしかしたらこの辺りから来ているのかも…?
ちなみにこの方法だと、急冷されることでコーヒーのアロマが閉じ込められるので、風味豊かになるのが特徴。
このスタイルを好むコーヒー通も少なくないそうです。
驚くほど詳細なレシピも載っています。

このレシピで淹れると、確かにバランスが良いです。
付け加えるなら、これは深煎りを想定しているようなので、
・温度は気持ち低め
・ドリップは気持ちゆっくりと

すると、甘みも強くなって良いと思います。

浅煎りの場合は、
・豆はレシピより多めに
・やや高めの温度で
・スピーディーにドリップ

これで、すっきりとした酸味が際立ちます。

是非お試しください。

③では、水出しコーヒーは…?

冷たいコーヒーの中で、もう一つ思い出されるのが「水出しコーヒー」です。
水出しコーヒーの別名を「ダッチコーヒー」といいます。
「ダッチ(Dutch)」は、現在ではオランダを指しています。

元々は、現在のオランダに住んでいるゲルマン人(低地ゲルマン)と、現在のドイツに住んでいるゲルマン人(高地ゲルマン)をまとめて指していました。
しかし、オランダ独立後、低地ゲルマンを「Dutch」、高地ゲルマンを「Duits」と呼ぶようになった、というのがその成り立ちとされています。
(日本で「Germany」を「ドイツ」と呼ぶのはこれが由来とされています)

…本題に戻りましょう💦

ところが、オランダに「ダッチコーヒー」というコーヒーやその器具がほとんど見られません。
では何故そんな名前が付いたのでしょうか。

それは、オランダの植民地支配の歴史に関係しています。
現在のインドネシアは、かつてオランダの植民地でした。
そして、オランダはインドネシアで、コーヒーのプランテーション農園をひらきました。
当初栽培されていた品種は「ロブスタ」という品種でした。
品種のお話は、以前の記事でも書かせていただいたので、もしよろしければご一読ください(シリーズでは精製方法なども解説しています)。

ロブスタは成長が早く、収穫量が多く、病虫害にも強い強健な品種ですが、独特の風味があります。
端的に言えば、「独特の野性的な苦み」という感じでしょうか。
エスプレッソやフレンチのような深煎りに加えることもありますが、現在は多くが加工用(インスタントなど)に使われています。

インドネシアにいたオランダ人(商人や軍人)は、この苦みを和らげるために低温での抽出を考えました。
その行きついた先が「水出し」という方法だったとされています。

確かに低温であれば苦味などは出づらいですが、同時に他のアロマも出づらくなります。
風味の強いロブスタ深煎りだからこそできた方法、とも言えそうです。
(水出しコーヒーは、深煎りがマストですね。浅煎りでは、よほど工夫しないと風味がぼやけてしまいます)

④アイスコーヒーが世界に広まったきっかけ

では、各地方の独特の飲み方…という印象のアイス(冷やし・水出しも含め)コーヒーは、なぜ世界中に広まったのでしょうか。
これは、某大手コーヒーチェーンが商品化したことがきっかけだったとか。

代表的なのが「スターバックスコーヒー」
スターバックスコーヒーによる商品化をきっかけに、1990年代になると北米で「アイスコーヒー」が急速に市民権を得始めます。
そして、その文化は世界中に飛び火。
2000年代に入ると、世界各地のコーヒーのメニューとしてメジャーなものになってきました。

それにしてもスターバックスコーヒーは、プラスチックストローの廃止

など、世界に先駆けて色々やる会社だなぁ…と思います。

逆に考えると、まだアイスコーヒーが世界で認知されるようになってから四半世紀くらいしか経っていない、ということですね。
日本人にはなじみ深いアイスコーヒー、これからどれくらい広まっていくのか、楽しみですね。


というわけで、今回は「アイスコーヒー」について取り上げてみました。
モノに歴史あり、ということで、味とともにお楽しみいただければ幸いです。

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