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百鬼夜行拾遺 雲

蜃気楼(しんきろう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

蜃気楼しんきろう
史記の天官書にいはく、海旁蜃気かいはうのしんき楼台ろうたいかたど ると云々。しんとは  大蛤おほはまぐり  なり。海上に気をふきて、楼閣ろうかく城市じやうしのかたちをなす。これを蜃気楼と名づく。又、海市かいしとも云。


燭陰(しよくいん)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

燭陰しよくいん
山海経さんかいけういはく鍾山しやうざんしん燭陰しよくいん といふ。身のたけ千里、そのかたち人面にんめん龍身りやうしん にして、赤色せきしよく なりと。鍾山は北海ほくかいの地なり。


人面樹(にんめんぢゆ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

人面樹にんめんぢゆ
山谷さんこくにあり。その花、人の首のごとし。ものいはずして、たゞ笑ふ事しきりなり。しきりにわらへば、そのまゝ 落花らくくは すといふ。


人魚(にんぎよ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]』

人魚にんぎよ
建木けんぼくの西にあり。人面にんめんにして魚身ぎよしん。足なし。胸より上は人にして、下はうほに似たり。是、氐人ていじん国の人なりとも云。


返魂香(へんごんかう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]』

返魂香はんごんかう
漢武帝かんのぶてい 李夫人りふじん を寵愛し給ひしに、夫人みまがり給ひしかば、思念してやまず。方士はうしに命じて返魂香へんごんかうをたかしむ。夫人のすがた、●●として、けぶり の中にああらはる。武帝ますますかなしみ、詩をつくり給ふ。

 是那非那立而望之
 偏娜々何冉々 其来遅


彭侯(はうこう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

彭侯はうこう
さいの木には せいあり。かたち黒狗くろいぬのごとし。尾なし。おもて、人に似たり。又、山ひことは別なり。


天狗礫(てんぐつぶて)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

つぶて

およそ  深山幽谷しんざんゆうこく の中にて、一ぢん魔風まふう おこり、山なり、谷こたへて、大せきをとばす事あり。是を 天つぶて  と云。左伝さでんにみへたる さう におつる  七つの石もうたがふらくは、是ならんかし。


道成寺鐘(どうせうじのかね)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

道成寺鐘どうせうじのかね
真那古まなご庄司しやうじが娘、道成寺にいたり、安珍あんちんがつり鐘の中にかくれたるをしりて、蛇となり  そのかねをはふ。この鐘とけて  となるといふ。  あるいは  いはく  、道成寺のかねは、今  京都  妙満寺みやうまんじにあり。そのめいのごとし。

  紀州日高郡矢田庄
  文武天皇勅願所道成寺冶鐘
  勧進比丘別当法眼定秀檀那
  源万寿丸弁吉田源頼秀合山
  諸檀越男女大工山願道願小
  工大夫守長延暦十四年乙亥
  三月十一日


燈臺鬼(とうだひき)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

燈臺鬼とうだひき
軽大臣かるのだいじん  遣唐使  たりし時、唐人とうじん大臣だいじんおし になる くすり をのませ、身を彩り、かしら燈臺とうだい をいたゞかしめて、燈臺鬼とうだひき と名づく。その子、弼宰相ひつのさいしやう  入唐につとうして、父をたづぬ。燈臺鬼、涙をながし、指をかみ切り、血を以て、詩をしよして いはく

  我元日本華京客 汝是一家同姓人
  為子為爺前世契 隔山隔海変生辛
  経年流涙逢嵩宿 逐日馳思蘭菊親
  形破他郷作燈鬼 爭皈旧里寄斯身


泥田坊(どろたばう)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

泥田坊どろたばう
むかし、北国ほくこくおきな あり。子孫のためにいさゝかの田地でんちをかひおきて、寒暑かんしよ風雨ふううをさけず、時々の耕作  おこたらざりしに、このおきな  死してより、その子  酒にふけりて、農業を事とせず。はてには、この田地を  他人にうりあたへければ、夜な夜な  目の一つあるくろきものいでゝ、かへせ  田かへせ  とのゝしりけり。これを 泥田坊どろたばう といふとぞ。


古庫裏婆(こくりばゝ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

ばゝ
そうの妻を梵嫂ぼんそうといへるよし、輟耕録てつこうろくに見えたり。ある山寺やまてらに、七代以前の 住持じうぢ の愛せし梵嫂  その寺の庫裡こりにすみゐて、檀越だんおつ米銭べいせん をかすめ、新死の  しかばね  の皮をはぎて、餌食ゑじきと  としとぞ。三かは奪衣婆だつゑば よりもおそろしく。


白粉婆

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

白粉婆おしろいばゝ
べにおしろいのかみ脂粉仙娘しふんせんじやう と云。おしろいばゝは、此神の 侍女ぢちよ なるべし。おそろしきもの。しはすの 月夜つきよ  女のけはひ、とむかしよりいへり。


蛇骨婆(じやこつばゝ)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

蛇骨婆じやこつばゝ
もろこし  巫咸国ぶかんこく女丑ぢよちうの北にあり。右の手に  青蛇あおきじや  をとり、左の手に  赤蛇あかきじや  をとる人  すめるとぞ。 蛇骨婆じやこつばゝ は、此国の人か、或説に云、蛇塚へびつかじや  五右衛門いといへるものゝなり。よりて 蛇五婆じやごばゝ とよびしを  あやま りて  蛇骨婆じやこつばゝ  といふと。未詳。


影女(かげおんな)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

影女かげおんな
ものゝけあるいへには、月かげに  女のかげ  障子せうじ などにうつると云。荘子さうじにも 魍魎もうりやう を景と  問答もんだうせし事あり。景は人のかげそ  魍魎はかげのそばにある 微陰うすきかげ なり。


倩兮女(けらけらおんな)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

倩兮女けらけらおんな
くに  宋玉さうぎよく東隣ひがしどなり美女びぢよ あり。かきにのぼりて、宋玉ををうかゞふ。嫣然えんぜんとして、ひとたび笑へば、陽城やうじやう  の人を惑せしとぞ。およそ  美色びしよく人情にんぜう  ●●●  す事、古今ここんに  ●●●  多し。けらけら女  朱●を  ●がへして多くの人をまどはせし  ●婦のれいな ● ん ● 。


煙々羅(えんえんら)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『百鬼夜行拾遺 3巻 [1]

煙々羅えんえんら
しづかのいふせき  蚊遣かやりけふりむすぼ ● れて、あ ●●● かたちを ●●● ま ● に、うすものの風にやぶれやすき  ごとくなる  すがたなれば、煙々羅えんえんらとは、名つけたらん。




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