見出し画像

『落研ファイブっ』第二ピリオド(7‐2)「三回目の世界(中)」

 あの晩、ゴーさんの記憶の中の僕らは何をしていたのですか――。
 松尾の問いに鼓動こどうが跳ね上がった仏像は、わざと時間を置いてから探るように言葉を紡いだ。

〔仏〕「お前の部屋に行って、急に立っていられないほど眠くなった。その先を何も覚えてねえ。変な夢を見て飛び起きて、それで連絡を入れた」
〔松〕「変な夢って」

〔仏〕「朝起きたら、なぜか千景ちかげ先生が俺の父親と結婚していて、それで俺と松尾が兄弟になっていて、同じ部屋で寝起きして。それ自体もまた夢で」
〔松〕「ゴーさんがお兄ちゃん?」
 子供のように微笑んで、松尾は仏像の手をそっと握る。

〔仏〕「おいベタベタすんな。俺はこういう趣味じゃねえって」
〔松〕「僕だってそういう趣味じゃありませんってあああっ」
〔仏〕「思い出したのか」
 仏像の手を離して起き上がった松尾を、仏像はけだるげに見上げる。

〔松〕「はい。オキシトシンの話をゴーさんにしました。それでゴーさんが僕をトントンしてくれているうちに寝落ちしていて。なのに起床後にはゴーさんはうちに来ていない事になっていて」
〔仏〕「そうか」
 それだけ言うと、仏像は寝返りを打った。

〔仏〕「仮説が正しければ、今は三回目の改変世界って訳か。大山阿夫利神社おおやまあふりじんじゃ鶴巻中亭つるまきあたりていのセットがキーなんだろ」

 松尾は小さくうなずく。

〔仏〕「そう言えば、八景島はっけいじまで練習試合をした時にもシャモが『鶴巻中亭つるまきあたりてい』がああだこうだって言ってたわ」

〔松〕「それって二回目の改変の時ですよね。三回目の改変があってなお、その件についてはゴーさんの記憶は消えていない。改変される記憶とされない記憶の違いも、規則性があるんだかないんだか」

 一貫して前後の記憶があるのはシャモさんだけですし、それも二回目の後で一回目の改変の記憶がよみがえったらしくってと松尾が補足した。

〔松〕「ね、怖くは無いけれど不思議な話だったでしょ。不思議ついでに言うと、【鶴巻中亭つるまきあたりてい】で何度か宿情報を検索しては見るのですが、どうやっても検索に引っかからないし、地元の掲示板的な所に聞いても誰も知らないって言うんです」

〔仏〕「そんなレアセットをよりにもよって俺の父親が引き当てた。しかも、今の所の変更点はあの晩お前の部屋にいたはずの俺が、部屋に行かなかっただけ。納得がいかねえな」
 
〔松〕「世界が改変されている仮説自体が、理屈を超えていますしね。それにしても、ゴーさんの夢の通り千景ちかげおばさんとゴーさんのお父さんが結婚したら」
〔仏〕「勘弁してくれ。千景ちかげ先生がアレに耐えられるわけがない」
 仏像の答えに松尾が少し寂しそうな顔をしていると、仏像のスマホが音を立てた。

※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

この記事がちょっとでも気になった方はぜひ♡いいねボタンを押してください。noteアカウントをお持ちでなくても押せます。
いつも応援ありがとうございます!

よろしければサポートをお願いいたします。主に取材費用として大切に使わせていただきます!