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人間と、業と、ええ顔と/『タイガー&ドラゴン』

ドラマ『タイガー&ドラゴン』、御存じですか?
2005年に放送されたTBS制作の宮藤官九郎脚本の落語ドラマです。
大人気だったから当時よくテレビを観ていた人たちはタイトルだけで懐かしい気持ちになるかもしれない。
ここ数日、仕事のBGM代わりに流していました。
年が明けてからNetflixでの配信も始まったと知り、
思わず1話に手を出したのがいけなかった。
もう何度も観ているのに!
 
主人公は天涯孤独のヤクザの虎児(長瀬智也)。
借金を取り立てるために接することとなった
西田敏行演じる噺家・林家亭どん兵衛の高座で初めて笑い、
まっすぐな性格ゆえに弟子入りを申し込みます。
噺を1つ教わり高座にかけることで毎回師匠に授業料を払い、
その授業料を師匠から取り立てるという約束をし、
ヤクザと噺家の2つの仕事と2つの一家を掛け持ちすることとなる。
「正直意味わかんねえ」古典落語の数々に触れてゆくうちに、
 現実世界がなぜか古典作品たちと毎回リンクしてゆき、高座にかけるようになります。
そうして周囲の人々を巻き込みながら、
皆の情にふれた彼は変わらないけれど変わってゆきます。

さらに、もうひとり、虎児のバディとなる男が居ます。
どん兵衛の実の息子である竜二(岡田准一)です。
若い頃「志ん朝を越えた」なんて言われる天才だったのだけれど
ある事件によって廃業をし、売れないアパレルをやっている。

この2人≪タイガー&ドラゴン≫と愉快な人々と、浅草の街、
古き良き愛すべき人物たちが登場する江戸落語たちと彼らの青春と芸の世界が
若き日のクドカンの、遊びまくりながらも人情深く、でも決して押し付けることのない、わいわいしたタッチで描かれます。

https://www.netflix.com/jp/title/81642967

やっぱ、ええなあと思うのです。
 
遊び心と情と「人間」、いい意味でふざけたバランスと真面目さ。
 
決してうつくしかったりきれいだけではない、人間というもののごちゃ混ぜ感、とほほ感。

全力で生きる者たちの、せやからこその、滑稽さとひたむきさ、切なさとアツさ。

だからこそ主人公たちと、噺の中の主人公たちと、共に笑ったり、泣いたりする。
 
当時は「落語オタ」かつ「小劇場オタ」気分で観ていました。
だいすきな古典たち(上方落語も好きやけどやっぱ江戸やん?(失礼))の世界で、
話の中の人々と共に
好きな脚本家や役者たちが自由に遊んでいるさまがうれしかった。
(私はどちらかというと松尾スズキ派やったけど(笑))
 
でも、観直してみて、
いや、もう何度目かなのですが、
やはり(作り方や見せ方が)「うまいなあ」と唸ると共に、
気持ちの深いところに触れてきて、
気付けば今回も数日で完走をしてしまいました。
 
この何年もライフワークとして追っている、
性別は関係ないけれど大人のための劇場での舞台や、
いろいろ問題はあるけれどあるからこそ考えさせられる旅芝居の芝居小屋で、いろんなものを見聞きしてきたからこそ
気付いたり、思ったりすることが多くなったということもあります。
 
女性(例えば古典落語の世界に多く出てくる遊女を通して)の生きる権利だったり、
いわゆる〝キモい〟などと心無いことを言われたりする人たちや、
弱者(という言い方は好きじゃないけれど)、
「私たちとは違う」とレッテルを貼られたりされがちないろんな人、
彼らを〝肯定〟(でももう一度言うけれど押しつけがましくなく)するような。

そんなこともストーリーにとても感じたのです。

舞台で語られる「噺」の中と、それを話す人とかかわる人たちのドラマ、両に。
 
さらに、
芸を通して「家族」というものを描いてはいるのですが、
家族の良さや家族の情やあたたかさ、
それは古典の世界で大事にされてきたもので、
でも、ただただ良いすばらしいとするのではなく、
そのむずかしさや面倒くささ押しつけがましさ、「はぁー?!?!」な点を出していて、
(思えば、ここから、(いろんな作品は経るけれど)『あまちゃん』に通じてゆくねんなあ! とは、今観返したからこそ思ったこと)
だからこそ、考えさせられたり、泣けるところがありました。

古典芸能の独特のしきたりや礼儀の世界、と、ヤクザの世界、という似た世界をリンクさせたという爆笑ながらも考えさせられるところも大きいよなあ。
(これが後にプロレスと能と家族(介護)の世界を描いた『俺の家の話』に繋がったのも御存じの通りです)
 
改めて、ほろり。
 
「しょうがないねえ」
 
これ、ドラマ内に登場する寄席通いに人生を捧げているちょっとめんどくさい蕎麦屋のおっさん(尾美としのり)の口癖(笑)

さまざまな、さまざまな人物たちが登場します。

それぞれのドラマが、また、ドラマとなり、
誰かを「ええ顔」にします。笑ったり、泣いたりのええ顔に。

大好きな古田新太(私史上最初の「推し」!)が演じた上方夫婦漫才師の回はほんまに人情話だし、
マジもんの噺家である笑福亭鶴瓶師匠もええ味出してる。

みんな、生きてる。
 
立川談志は「落語とは人間の業の肯定である」と言いました。
我らが上方の米朝師匠(桂米朝)もまた「やっぱり最後は人間や」と言いました。
 
大好きな「最後のアングラ女優」銀粉蝶演じるおかみさん(おかあさん)がほろ酔いで言う台詞も印象的です。
 
「落語はね、芸術じゃないの。庶民の娯楽なのよ」
 
この回、皮肉がきいていて秀逸なんです。
この回と「いけすかねえ落語オタ」(後に愛すべき人となりますが荒川良々が演じます)の登場回も。こういう皮肉と笑いも、ええよなあ、落語やなあ。
 
クドカン特有の「ガチャガチャ感」、
品のなさカジュアルすぎさやあっけらかんとした下ネタなどは全力で、
苦手な人はもしかしたら残念ながら最後まで走り切れないかもしれません。
ある意味コテコテすぎる点でも人を選ぶかもしれません。
 
でもでも、ネットフリックスでもアマゾンプライムでも観られるので気軽に是非にと思います。
 
2000年頃の浅草の街の風景や寄席(セットもあるけれど)の風景にも、しみじみするよ。
 
そして、
なにより、なにより、
やはり、私は、寄席に詰めかけたお客さんたちが笑っているさまに、とてもグッときます。
毎回そのさまがうつされ、皆の(その回の事件にかかわった人と客席のお客さん)のええ顔で、高座の上の彼がええ顔になる。
きもちのやりとりと、やりとりが空気と両のええ顔になるさま、
寄席(劇場)が一体となるさまが、とても、とても。

それも、今、自分が、劇場で体感しているからこそ、なのだと思います。

うん、最終話のラストのラスト、これぞ、泣き笑い、反則やで(笑)




この作品のベースというかモチーフとなったのは
市川森一脚本、梅沢富美男主演(もちろん西田敏行も!)
『淋しいのはお前だけじゃない』(1982)。
 
毎回長谷川伸をはじめとした旅芝居でお馴染みの芝居をモチーフに
現実とダブルミーニングな感じで(しかも借金ネタで)1話ずつ進んでゆく。

この作品にリスペクトを込めて、というのも、なんか、ええよねえ。
 
昨年秋、すっげえ偶然なのですが、
東京の古書店で偶然この脚本集を見つけました。
高いなあ、と怯みながらも思いきって買いました。
勿体なくてまだ読めてませんが、ぼちぼち読もうかな。
いろいろ読む本ためてるのやけれども、この機会に。


この頃から数年、
テーマソングの『タイガー&ドラゴン』(クレイジーケンバンド)、
旅芝居の舞踊ショーでも流行りましたね。
猫も杓子も「俺の話を聞け」って歌ったり踊ったりしてた。カバーバージョンも流行った。 ヤンキーイズム、チョイ悪イズム! (先日の記事ご参照(笑))


関係ないけれど、トップ画像は先日いただいた手ぬぐいです。
創業150周年、超老舗の版元さんのものを譲り受けました。
めちゃくちゃテンションが上がりました!  やっぱり浮世絵はずっと大好き。


以下は、ちょろっとですがいつもの自己紹介 。
と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
よろしければお付き合い下さい🍑✨
ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。

大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。

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あなたとご縁がありますように。今後ともどうぞよろしくお願いします。

皆、無理せず、どうぞどうぞ、元気でね。

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