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まやかしの「データドリブン経営」

「データドリブン経営」という言葉を初めて聞いたのはいつだったか?思い出せないが、Google Trendsで調べてみると下記のような結果で、少し見づらいが2017年頃から検索回数が上昇しているのがわかる。

Google Trendsより

データドリブン経営とは何か?については、この言葉に注目を集めたい大勢の人たちがウェブにいろいろな記事を書いているのでそれらを参照してほしいが、このデータドリブンと対になる概念として「データインフォームド」という言葉があることを最近知った。
意思決定におけるデータドリブンとデータインフォームドの違いを私なりの理解で簡潔にまとめると、

データドリブン
データで表される客観的な事実を分析し、その結果に基づいて意思決定を行うこと。

データインフォームド
データを参考にしながら、定量指標以外の情報も検討材料として意思決定を行うこと。

このように書いてみると「そもそもデータだけで意思決定できるのか?」といった疑問がわくし、「データインフォームドでない意思決定があり得るのか?全部がデータインフォームドだろ?」と突っ込みを入れたくなってしまう。この手のバズワードがいい加減で胡散臭いことはいつになっても変わらない。

ちなみに、データに基づく意思決定の身近な例としては競馬が挙げられる。ご存じのとおり、競馬新聞には各出走馬の様々な情報が満載であり、客観的な定量データとしてはレースごとのオッズがある。
特にオッズは秘められた情報の宝庫という考え方があり、かくいう私も負け組サラリマンになる前は熱心な競馬ファンであり、オッズ分析について真剣に研究していたことがあった。
この例でいうと、オッズのみから勝ち馬を予想するのがデータドリブン、競馬新聞に載っている定性情報も加味した予想はデータインフォームドになるだろう。

さて、私の観測可能な範囲に限ったことかもしれないが、企業経営面でのデータドリブン志向は今まさにバブル真っ盛りといった感がある。
しかし、データ分析だけで意思決定につながる重要な事実が分かると考えること自体が間違っている可能性はないだろうか。実は下記の書籍にこれに関する鋭い指摘が出ている。

この本では、定量的なデータを人や組織の評価に用いると、なぜ機能不全に陥ってしまうのかについて様々な実例を紹介し、考察している。
その中から企業経営に関する内容を私の理解でまとめると、

  • 企業が巨大化し、かつ直面している市場が流動的で先行き不透明な状況にあると、経営者の認知負荷が能力を超過し、運営する組織の全体状況を把握できなくなる。

  • 現場で働く部下たちは専門知識を豊富に持っているため、経営者は部下から上がっている報告の内容を正しく理解し、正しい意思決定につなげることが困難になっている。

  • そこで、あたかも客観的な真実に見えるデータ(=定量指標)を用いて意思決定したい欲求が生じる。つまりデータドリブン経営である。

  • しかし、収集&可視化しやすいデータが重要とは限らず、また重要な情報は収集や可視化が困難なことがしばしばある。そのような状況でデータドリブン経営がうまくいくだろうか?

というのが著者の主張の概略だ。詳細は本書をお読みいただきたいが、データドリブン経営に関する不信感を適切に言語化できていると私は思う。

同書で指摘されているとおり、「データドリブン経営」の大義名分のもと、データ収集と可視化、そして分析に莫大なコストを掛け、その効果は投入コストに見合ってない、そんな事態が多くの企業・組織で起こっているのではないだろうか。

データドリブン経営については、まだまだ眉唾物で傍観しておくのがよいだろうと個人的には強く感じている。

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