見出し画像

【掌編小説】アンジェラの秋

 紅葉の季節。

 近所の公園で、幼馴染みのアンジェラと待ち合わせ。

安寿郎あんじゅろう!」
「よっ!」
「ゴメン、遅くなって!」
「俺も今来たとこ」

 アンジェラが俺の右側に座り、一言。

「彼と別れた」

 …………。

「あっ、そ」
「彼に振り回されるの、飽きちゃった!」
「飽きましておめでとうございます♪」

 彼に振り回されていたアンジェラが、俺はずっと気掛かりだった。

「……ってことは~、おまえの横、空いてるってこと?」
「そだね、空きましておめでとうございます♪」
「自分で言うな」
「めんごめんご……。で、さ」
「ん?」
「やっぱ、あんたといるのが落ち着くわ」
「そうだろ~。俺のことは、飽きない?」
「飽きない、きっと」
「俺も、おまえのこと、きっと飽きないよ」
「飽きない二人!」
「だな! じゃあ、飽きない二人で、飽きない商い、始めますか?」
「そだね♪」

 すると、アンジェラが手提げカバンの中を、ゴソゴソとし出した。

「お、何々? やっと俺への愛に気づいて、早速、ケーキとかクッキーとか、何か作って来てくれたのか~? 照れるぜ、全く~♪」
「えっ? 違う違う、コレ! はいっ!」
「えっ? 何コレ?」
「ハチ、ミッツです!」
「はぁっ?! 『星、みっつです!』、……じゃなくて?!」
「ハチミツの瓶、固くて開かないんだよね~、開けて!」
「このタイミングで、『ハチミッツです!』って、ほんと、おまえってさ~、色気もムードもねえよな~」

 ー ポンッ! ー

 未来への扉が開かれた音。

「あっ! さっすが~!」
「開けましておめでとうございます♪」

 俺は、ゴチャゴチャ言いながらも、瓶を捻ることに、幸せを感じていた。

 互いの気持ちを確かめ合い、二人で見上げた夕方手前の紅葉は、何だか、より紅く感じて、二人の頬を、ポッと、赤らめた。

 秋の深まり。

 愛の深まり。

「秋の気配、深まって来たね♪」
「そだな~」
「秋の気配が増して来たと言うべきかな?」
「秋増しておめでとうございます♪」
「フフッ♪」
「言わせたかったんだろ?」
「テヘッ♪ バレてた♪」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?