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トンチンカン

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昭和30年頃の北海道。鍛冶屋を中心とする連作短編小説です。 トンチンカン。ズレと鉄がテーマです。長さは5000字前後
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トンチンカン

トンチンカン

あの家にまつわるあの家の人達の記憶は薄く、今やほとんどすべてが音の存在です。
あの家の工場の職人たちと話したことはある。職人たちと家族の飯炊きをしながら掃除や風呂焚きまでこなす忙しそうな奥さんと話した束の間の時間も、その風呂を借りたことも覚えている。塗炭を張り巡らせた、大きくて、わりに薄身の印象がある作業場から立ち昇る煙は深い黒で、夏の表通りではまだ舗装されていない道路の上を自転車が過ぎる度に黄色

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