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思い出が、新しい思い出を作る。

土曜日の朝方、次男が「悪夢を見た」と私のベットに潜り込んできた。
頭を撫でながら、息子に話しかける。
「今日の朝はホットケーキにメープルシロップたっぷりかけようね。」と息子が大好きなホットケーキの話をしていたら、息子はまた眠りに入っていった。
そしてまた、ふっと昔の思い出が脳裏に浮かんできた。

私が小学生だった頃、私達家族5人は8畳くらいの和室に川の字で寝ていた。
ある日私は、汗でパジャマがびしょ濡れになるほど怖い夢を見た。
内容も、いまだにはっきりと覚えている。

夢の中で私はなぜか、釜をもったおじさんに追いかけられていた。
おじさんがどんどん近づいて来る。夢なのに私の息はあがり、もう走れそうもないと絶望的になった。
ふっと道路のわきにドブがあった。私は「ドブにかくれよう」そう思った。
追いかけて来る男から逃げながら、角を曲がって、男の視界から私が消える一瞬の隙にドブにダイブした。
ドブにうつぶせにスッポリとはまった私は、息をひそめる。

おじさんが走ってくるのが聞こえる。

「どこ行った、でてこーい。ドブ女。」

「ばれてるんかい」と思い、顔だけ上げる。
おじさんはニヤニヤしながら、釜を私の背中に思い切り振り下ろした。
痛い・・・・とドブの中で唸る最中、目が覚めた。

目を覚ました私は、しばらく天井を見つめて、今の出来事が夢だったことを確認する作業をした。
「よかった」と安堵した直後、恐怖が押し寄せてきた。
母の布団に潜り込み、「お母さん、怖い夢見ちゃった」と言う。
母は目を覚まし「大丈夫?」と声をかけて、私の頭を撫でてくれた。そのままなぜか寝ようとしたので「お母さん、なんかお話して」とお願いした。

母は「何がいいなかな・・」と言いながら、私の胸のあたりを優しくトントンしながら話し始めた。

「むかし、むかし、あるところに、芳一という男がいました・・・」

耳なし芳一かいっ!!!
っと、今ならすぐに突っ込むが、その時は母の昔話を最後まで聞いた。なぜなら、耳なし芳一の話を聞いたのはそれが初めてだったからだ。聞き終わってから、思った。
「なぜ母は、怖い夢で怖がっている娘に、追い打ちをかけるように怖い話をしたのか。もう眠れないじゃないか」

恐怖で声が出なくなっている私の横から、母のいびきが聞こえてきた。
私はこの日、生まれて初めてオールをした。母のいびきを聞きながら。

私がおたふくや風疹で学校を休んだ時にも、こんなことがあった。

私が、おたふくに罹った時のこと。
数日間学校を休むことになった私に、犬木加奈子作「不思議のたたりちゃん」という漫画を何冊か買ってきた。
「これでも読んで、ゆっくり休んで。」と母は颯爽と仕事に出かけた。もちろんホラー漫画。絵がとにかく独特で、一度見たら脳裏にこびりつく。
もちろん家には私一人。
いじめだろうか?
その日の文句を散々言ったのにもかかわらず、風疹になった時は「寄生獣」という漫画を買ってきた。
「これでも読んで、ゆっくり休んでね。」
休めるか!ボケ!

しかし、言われたことを守る責任感のつよい私は、買ってくれた漫画は全部読んでいた。最初こそ恐怖を感じるが、何度も読むと、意外にもはまってしまった。
結局、全巻揃え、友達にも進めていた。

大人になってから「昔まっ子に変な漫画押し付けられて嫌だったなー」と文句を言われたこともある。
高校生になって初めてできた彼氏にも「不思議のたたりちゃん」をごり押しした記憶がある。「まっ子、なんかヤバくない・・・?」と引かれた。私がヤバいのか、漫画本がヤバいのがよくわからなかったが「こういうの読んだ方がいいよ」と別の漫画を渡されたのをよく覚えている。確かブラックジャックだった。

話はもどるが、母はもともとホラーが大好きなのだ。
還暦を過ぎた今も寝る前に、youtubeで「怖い話」を聞きながら就寝している。「怖い話」の暗いトーンを聞いてると、すぐ寝つけるんだとか。怖い話が子守歌のようなものなんだろう。

こんな風にいろんな記憶がよみがえってきて、私の土曜日が始まった。
無性にホラー漫画が読みたくなって、久しぶりに母に電話をした。
「おすすめのホラー漫画ある?」と。
母は大喜びで、いろんな漫画を勧めしてきた。

怖い夢を見た次男のおかげで、久しぶりに母といろんな話ができた。
昔話もたくさんした。
子ども達にも、昔ばなしを聞かせた。耳なし芳一の話も聞かせてみた。そして母と子ども達は一緒にホラー漫画を買う約束をした。

思い出って思い出すものだけじゃないんだな。
今もそれを共有できる人がいると、新しい思い出も一緒につくれるものなんだな、素敵だな、いっぱい思い出そう、なんて思った土曜日だった。




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