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物語も僕も、 #書もつ

あれ?今どこに向かってるんだっけ?

久しぶりに都内へ向かう地下鉄の車内、僕はスマホで地図を少しみつめてから、手にしていた文庫本を再び開きました。冒頭あたりにページを戻して、この物語の舞台を改めて確認して、つぶやいてしまいました。・・なんというタイミング。

時代はおそらく江戸時代、街場にある和菓子屋が舞台となった人情物語を読んでいました。情に篤く、職人気質の父、支える娘、無邪気な孫、というお手本なような家族と、そこに起こる人間くさいハプニング。

お菓子と人の繋がりで、”事件”を解決していく、甘さとしょっぱさのある、しみじみとした物語。日本全国の和菓子文化にも、少しだけ詳しくなれる、そんなこだわりの和菓子屋の話を、ご存知でしょうか。

亥子ころころ
西條奈加

実は、この物語を読み始めて数日後に、かの創作大賞の授賞式があり、光栄なことに、ベストレビュアー賞をいただき、式へご招待いただいたのでした。その会場へ向かう地下鉄の車内で、ハッと気がついたのでした。

この物語の舞台は、麹町番町。当時とズレはあると思いつつ、ざっくりとした位置としては、東側は半蔵門(現在の皇居の西側)から西側は外堀の縁(現在の四ツ谷あたり)という場所でした。

授賞式の会場の住所は、千代田区麹町・・あれ?同じ麹町では!?

俄然、読むのが楽しくなって来ました。

まさか物語の舞台となったであろう土地に向かっているなんて・・授賞式への楽しみもあり、さらには物語の先も気になるという、予想外の後押しによって、ページはどんどん進みました。

日に二つだけのお菓子を売るお店「南星屋」は、その味の良さから評判は高く、開店前には行列し、開店して間もなく商品が売り切れて営業を終了してしまう。その店主が手を傷めてしまい、さてお店をどうするか・・というとき、店の前で、とある男が倒れていた・・そこから、店と家族が大きく動き出す。

日本各地の和菓子からインスピレーションを受けて、その店の商品にするという発想と、それを実現させる職人技の技術の高さが、その店を支えているわけですが、ここではそれが危ぶまれてしまうのです。何か不穏な雰囲気を纏いつつも、真摯に仕事に打ち込む男の姿にさえ、読者は緊張しながら読むことになるでしょう。

どのお菓子も食べてみたい・・と思いながらも、結局はどれも難しいか・・と思いながら、お腹を空かせて本を閉じるのでした。

和菓子は、昔からあるようで実は創作されていたり、材料の都合から別のものになっていたりと、相当な種類がありそうだということもわかりました。

家族の形には色々とあって、そのどれにも愛情という温かな気持ちと眼差しがあることに読み手は救われるのです。お店を続けることで重ねる苦労もまた、家族を強く温かく成長させてくれるのかも知れません。

夜に訪れた彼の地は、どうにも当時の面影など見つけられない、都会らしい街並みでした。でも、きっとこの街のどこかに和菓子屋があって、街に暮らす人の励ましや慰めになっているのだとしたら、ちょっと嬉しくなるなぁなんて思うのでした。


練り切りを使った上生菓子、様々な意匠に季節を感じます。あんこにお餅、焼いた皮など、和菓子にもいろんな味がありますね。美味しそうなサムネイル、infocusさんありがとうございます。


#推薦図書 #和菓子 #麹町





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