3人で帰る
ッナーーーー ティゴンニャーーー
ざらりとした野太さのある女性の声が響く。聞いたことのない言葉、それは南アフリカ地域の言葉らしい。
次第に人数が増え、音量が増し、日本語らしき言葉も混じってくる。動物の皮を張った打楽器を叩く音が重なって、歌声を鼓舞し、歌い手だけでなく聴く者の心も昂らせる。
ミュージカル、ライオンキングの冒頭。ラフィキという呪術師のヒヒが、客席に向かって叫ぶように歌う場面だ。
日本ではロングラン公演を続けており、劇団四季の代名詞とも言える、動物たちが生きていくドラマを描いた作品である。
ラフィキの独唱から、少しずつ動物が増えていき、客席の後ろから動物たちが舞台上の岩(プライドロック)に向かって集まってくる。
サークルオブライフ、命の循環を歌う冒頭は、初めて観たものの心を揺さぶる。初めての観劇では、僕も友人も開始早々に泣いてしまった。
カーナビに収録されている、そのアルバムを聴きながら向かっていたのは、妻と子が入院している病院である。
自宅から少し距離はあるが、その規模の大きさ、施設の新しさ、医療者さんたちの的確な対応に、妻と赤ちゃんの2つの命を預けて良かったと思った。
またこれから幾度となく通う場所にもなるものの、ここに来れば大丈夫だという思いを強くする数日間だった。
もしかしたら一緒に退院できないかも、それは生まれる前の夫婦の会話の中にあった。しかし、同日に退院できることになった。
上の2人の時は、当たり前のように思っていたけれど、実はそれも巡り合わせだったのだと、いまさら感謝する体たらくである。
時間に追われ、時間を削り、時間を理由にして、仕事という日々を過ごしていた。しかし、検診と出産の立会い、そして退院と、この病院に来ると、良くも悪くも時間が延びたような感覚になる。
なんだか勿体無いなぁと、何もない時間にこうしてスマホでカリカリ書いていると、生まれてきた子に早速救われている思いすらしてくる。
生まれたばかりの子は、その日その日の齢が数えられる。日齢、である。今日は、日齢5日目。
僕の年齢の、およそ0.03%だった。
日齢、月齢、そんなふうに数えていたら、ハーフバースデー(半年)という独特の誕生祝いもやりたくなる気持ちが分かる。
帰り道は3人で、今日から5人家族が正式に始まる。病院では面会ができなかった上の子たちの反応を、しっかりと受け止めたい。
サークルオブライフを聴きながら、生まれた子がもしかしたら誰かの生まれ変わり、命のつながりであるとしたら、それは僕たちに贈られた命であり、僕たちもまた子と同じように祝福されていたのだと、改めて感じた。
人の親になってまだ数年しか経っていないが、こうしてさまざまな経験をしている自分が不思議でもある。
動物たちのように、生きるか死ぬかという壮絶さはまったく欲しくない。
でも、作品の中盤で歌われる「ハクナマタタ」のように、明るく元気に生きる家族になりたい。
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