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月曜日の図書館 それぞれの一日が

産休中のLちゃんから出産報告が届く。写真を見せるとT野さんが、産まれたてのときはだいたいみんなガッツ石松か鶴瓶に分類されるが、この子はすでに精悍な顔つきをしている、と言う。みんなでスマホを取り囲んでありがてえ、と拝顔した。

おじさんになっても産まれたての顔つきを維持しているなんて、やはりあの二人は只者ではない。

そしてみんなで取り囲んで、と書いたけれど、独身女子の多い職場なので、実際はこの手のデリケートな話題に対して大人な対応をしてくれる人だけを選んで写真を見せた。

鹿は人を襲うのか、というレファレンスがくる。

N藤くんが出勤しないのでどうしたのかと心配していたら電話がかかってきて、駅で体調を崩した妊婦さんに付き添っているから遅れるという、嘘みたいな本当みたいな、嘘だったらもう少しましな話をするだろうから多分本当のことなのだろう。

とりあえず自分が倒れてるんじゃなくてよかったね、とみんなで言い合う。ひとり暮らしでも働いてれば安否確認してもらえるから助かる。わたしがそう言うとT野さんが、でもひとりぐらいいなくても気づかないかも、と言う。人数多いし、シフト制で休むから全員出勤がデフォルトじゃないし、お互いを常に気にかけてるわけじゃないもん。

T野さんはときどき厳しい現実を突きつけてくる。

係長に、出勤しなかったら家まで様子を見に行くか尋ねると、二日くらい来なかったら行くかなあ、と自信なさそうに言う。死んでいたらすでに腐敗がはじまっているだろう。今度上司が変わるときは、出勤しなかったその日のうちに生存確認してくれる人の下で働きたい。

フロアの真ん中を特大のカメムシが横断している。

本を読んでいて倒れたおじいちゃんがいて、救急車を呼んで運んでもらったのだけど、車内で治療しているうちに(?)具合が良くなって救急車を降りて再び図書館に戻ってきたのだけど、今度はバスの無料パスがないから帰れないと言って途方に暮れている。たぶん、救急車の中で落としたのだ。

その一部始終が起こっているすぐとなりのわたしがいるカウンターでは、おじさんが郷土資料コーナーにカバンが持ちこめないのはおかしい、自分がよく行く××図書館ではそんな不便なことはない、利用者を信用できないのか、と言ってずっと怒鳴っていた。

わたしはこういうとき人間ならどうするかな、と考えて、命の心配をするのが自然だろう、と思い、意識的にうわの空で聞いていた。

社会人なら/公務員なら、と考えればまた判断は変わるのだろう。

鹿 被害
奈良 鹿 危ない
シカ 発情期 襲う

係長の昼ごはんがショートケーキだったのでファンタジーの住人かと思う。そういえばLちゃんも朝食にホームパイを食べると言っていて、天使なのか?と思ったものだけど、ガッツ石松じゃない子が産まれたところから判定するに、やや天使寄りかもしれない。

帰りの電車の中、椅子取りゲームを思わせるすばやさで席に座る小学生の女の子。車内アナウンスの英語が巻舌すぎてぞわぞわする。

倒れたおじいさんは次の日もきちんと「出勤」してきたので、よかった、ちゃんと無料パスが見つかったのだ、と思った。

vol.63 了

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