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月曜日の図書館 リーダーがはじまる

本を読むとわからないことがたくさんある。
なぜ主人公はあんなことを言ったのか?
この作品で作者は何を伝えたいのか?
どうして自分はこの本をこんなに好きなのか?

わからない。
わからないし、きっとはっきりとした答えもない。
世の中には、わからないままのことがこんなにもある。
それを知りたくて、本を読むのだと思う。

ベテランの先輩たちが異動することになり、繰り上げ当選でわたしが春からレファレンスリーダーを務めることになった。リーダーと名のつくものは、小学生のときの縦割り班以来である。1年から6年までの児童で班を作るのだから、必然的に6年生はみんなリーダーだった。いや班長か。

班長としてどんな仕事をしたのだろう。覚えているのは、焼き芋大会の前日に、洗った芋をアルミホイルで包む作業を延々とやらねばならず、大人だったら残業手当がもらえるのでは?と思ったことくらいである。

そしていくら注意しても1年生の子を上級生がいじめるのでうんざりしていた。数年後、いじめられていた子が今度は1年生をいじめていたので、負の連鎖は断ち切れないのだ、と思った。

頼りにならないリーダーであった。

後輩のN藤くんが、パソコンの画面表示を拡大するにはどうしたらいいですかと聞いてきて、思わずググれよと言ってしまう。わたしが近くにいると思って安心してはいけない。リーダーだって知らないことがあるのだ。

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働きはじめたころは、辞書の引き方もわからなくて周りから絶句された。だって実家には広辞苑しかなかったし、他の辞書がよもや違う構成だって知らないし。

目分量で料理を作るせいで、鍋が変わった途端に勘が狂ってしまうみたいだった。しょうゆは鍋の周りをひとまわりさせる量、ではなくて、大さじいくらで覚えておく。そうしなければ、ちょっとした条件の違いで味まで変わってしまうということを、司書講習をたった2ヶ月受けただけで働きはじめたわたしは知らなかった。

上下巻に分かれていて、下巻の最後にしか凡例が載ってないとか、タイトルがくずし字で書いてあって、背表紙をいくら眺めても棚から見つけられないとか。基本資料なのに検索してもヒットせず、おかしいと思ったら加除式のためデータが作られてなかったとか。

そんなの知ってて当たり前、と見下ろされるときのやるせなさ。

さまざまなトラップにことごとく引っかかりながらここまできた。足元にロープが張ってあることを誰も教えてくれなかったから、何度でもつまずいて転んだ。

それなのに、自分が教える側になったら、今度は誰かが転ぶのを知らんぷりして見過ごすのだろうか。ググるより目の前にいる人を頼りにする方が、よほど健全なコミュニケーションの取り方ではないだろうか。

今こそ、負の連鎖を断ち切るとき。

新人にいじわるな質問をして試そうとする利用者にN藤くんがつかまって、てんてこまいしているので、そのものズバリの内容の本は存在しないこと、代わりに関連する本を何冊か紹介して、あとはひたすら傾聴に徹すると機嫌が直ることを伝える。

リーダーとしてのわたしを、もう一度生き直すのだ。

もちろん、そんなトリセツに満ち満ちた日常だけでは精神が持たない。ときには経験や知識で解決できない、解決しなくてもいいギモンを抱えて、バランスを取ることも大切。

だから、本を読むのだと思う。

vol.66


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