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日本のものづくり | monogoto #2 ガラスと自分への挑戦〜Sghrで見たガラス作りと職人像

 家で過ごす時間が増えた今、インテリアにこだわる機運が高まっている。上質なモノを通して、生活に彩りを加える楽しさを多くの人が体感していることだろう。中でも今回取り上げるガラス製品は、飲み物を注ぐ・食事を盛る・花を飾るなど、日常のあらゆるシーンで頻繁に用いられている。職人の手で作られた美しいガラス製品で、暮らしを彩るのはいかがだろうか。
 今回取材をしたのは、千葉県九十九里町に工房を構えるSghr(スガハラ/https://www.sugahara.com/ )の塚本衛さんと、松浦健司さん。普段は見ることのないガラスづくりの現場から、製品完成までの裏側と、込められた想いをお届けする。

ガラスとの出逢いと魅力
今回お話を伺った塚本さんと松浦さんは、ともに当初から職人として社会に出た。それぞれ職人を志すに至るまで、どのような経緯があったのだろうか。

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塚本さん「15歳から、集団就職でガラスづくりに携わり始めました。当時は仕事への違和感もありましたが、徐々にガラスの魅力にのめり込んでいきました。いくらやってもうまくいかない、そんな状況をガラスと自分への挑戦と捉えて続けてきた結果、気づけば50年以上が経っていました。」

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松浦さん「ガラス製品との出逢いは大学生のときです。大学は工学部でしたが、キャンパスライフがあまり楽しくなくて。学外で何か習おうと思っていました。そこでたまたま、下宿先の近くに個人工房があったので通い始めました。そこからガラスの魅力にハマり、大学卒業後から職人の道へと進みました」
ガラスと出逢うまでに至る道程は異なれど、ガラスの魅力に取り憑かれたという点では、両者共通している。

  では、その魅力とは、さらに言えばSghrで作られるガラス工芸品の魅力とは、どのようなところにあるのだろうか。聞いてみると、両者同じ観点から切り出した。
塚本さん「職人が考えてデザインしている点です。職人でなければ、ガラスの良さが分からない部分があります。その点、Sghrでは(ガラスの良さを熟知した)職人が自由に作っていて、その点は強みだと思っています。」

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松浦さん「職人がデザインしている点ですね。日々ガラスを扱っていて、ガラスを知っている者たちが生み出すデザインには図面では表せない独特な部分があり、そこが魅力だと思っています。」

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職人の表情、ガラスの表情

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 工場を廻っていて印象的なのは、職人の方々が見せる様々な表情だ。作業工程の中で、表情が緩んだり、険しくなったりと、様々なリアクションが見て取れる。その表情の裏側には、何があるのだろうか。
塚本さん「ガラス作りは瞬間に決まる仕事です。高温の炉から撒き出して、温度が下がっていく間にガラスは固まってしまいます。固まるまでの間は、いいものを作ろうという気持ちをしっかりと持ち、それを品物に伝えて形にする必要があります。その瞬間は最大限の緊張感があります。様々な表情をするのは、その緊張から解放されたときですね。」

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松浦さん「ドロドロの状態から形作っていく過程で見せる一瞬の表情が、ガラスにはあります。その表情の美しさを見つけたときや、その表情からふとデザインが浮かんだりしたときにニヤッとしてしまいます。」
 成功もあれば、当然ながら失敗もある。しかし結果にかかわらず、その作業工程自体を楽しんでいる様子が見て取れる。塚本さんも、その瞬間、瞬間を楽しんでいると言う。
「ガラスの素材は素晴らしいものだと思っています。その素材と自分とが一緒になって良い物を作ろうと真剣になることが、重要かつ楽しい瞬間ですね。」

職人として直面する難しさ
 しかしながら、ガラス作りにも難しい部分が存在する。「今でも上手くいかない」とは塚本さんの言葉だが、単に難しいといっても、そこには複合的な難しさが見えてきた。両者の話を聞くなかで出てきた3つの観点を順に紹介する。

①技術的な難しさ

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 まず何より、技術的な難しさだ。作業の特徴を踏まえても、その難しさは想像を絶するに違いない。
松浦さん「1000℃を超えるものを扱っているので、手で触れて作ることができないところですね。手で扱えればどれだけ簡単かと思いつつ、道具を駆使して作るほかありません。しかし、道具に頼りすぎると道具を使った感が出てしまい、ガラスの曲線美が出づらくなってしまう。道具を扱いながらも、極力自然な形に仕上げていくのが難しいところですね。」

②精神的な難しさ

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 我々にとっては、目にしている作業の一つ一つがどれも新鮮で、その真新しさに自然に気分が高ぶる。しかし当然ながら、職人の方々にとってはそれが毎日取り組むルーティーンワークである。私たちの仕事に置き換えると分かりやすいのだが、同じことを繰り返すには根気が必要だ。製品作りとなると、気持ちの持ち様は顕著に形となって現れる。塚本さんも、その難しさを日々感じ、今なお向き合っている。
「自分がいかに前向きに取り組めるか、毎日続けていけるか。気の緩みが出て、時間を無駄にしてしまうこともあります。なので、良いものを作ろうという気持ちを育てていくことが一番大事で、難しいところですね。」


③工芸であり、アートであることの難しさ

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 ガラスを知り尽くした職人が手掛ける製品は、やはり上質で、ユニークである。しかしながら、手を掛けた分、そこにはコストが伴う。低価格・大量生産の品物でもある程度の利便性が担保されている今、値の張る商品を選択する消費者がどれだけいるか。最後に紹介するのは、商売的観点で見る難しさだ。
松浦さん「職人がデザインしているという点が一番の強みですが、それがどんなに良い作品だとしても、購入するのに数十万円掛かってしまっては、日常で使えるものではなくなってしまいます。なので、ある程度の量産をしつつ、かつ手作り感のある表情を選び取って形にしていくのが私たちの仕事です。」

 このように、様々な難しさを経て完成される作品の数々。時間と想いを掛けて届けられる工芸品を、実際に使うお客様にはどのように使って欲しいのだろうか。
松浦さん「自分の感性で、自由に使って欲しいですね。職人も自由な発想で作っているので。Sghrでは4000を超える種類の作品があります。その中で、自分好みのモノとの出会いも楽しんで欲しいです。」

取材後記
 職人というと、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。筆者の職人像を正直、かつ端的に表せば「寡黙」。やや閉鎖的な印象すらある。こういった先入観は、少なからず抱えている人がいるだろう。
 しかしながら、今回の取材を通して見えたのは、アットホームな空間だ。職人の皆さんはそれぞれの製品と向き合いつつ、気さくな会話も飛び交う。そして何より、快く我々を出迎えてくれた。

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 松浦さんは言う。
「ぜひ工場に遊びに来て欲しいです。工房内は自由に見学ができる態勢を整えている(※現在はオンラインで工房見学を実施。リアルだとあまり近くまで寄って見せられない部分を、カメラ映像で臨場感溢れる見学を実施中https://www.sugahara.com/story/online/)ので、作っている現場・温度・空気を感じていただけたら、すぐハマるのではないかと思います。」

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 モノに困ることがなくなった現代社会において、我々が次に求められるのはモノが作り出されるまでの物語、つまりは「コト」ではないだろうか。機械にはない、ヒトの手から生み出されるストーリー性は、今後重要性が増すに違いない。そしてその現場を知ることで、私たちも必要以上にモノが溢れかえる現状を見直し、消費に対する考え方を再考できるのではないだろうか。
ヒトの手が込んだモノ。雑多な現代だからこそ、手にしたいものである。

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