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【日本全国写真紀行】37 秋田県にかほ市象潟町象潟・九十九島

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。


秋田県にかほ市象潟町象潟・九十九島


幻の潟がよみがえる昔ながらの景勝地

 今から300年以上前、東北を旅して「奥の細道」を著した歌人・松尾芭蕉。その芭蕉が旅の最終目的地にしたといわれているのが象潟である。真偽の程は定かではないが、松島と並ぶ景勝地として先人の歌人たちを魅了してきた象潟を見たいと強く願っていたことは間違いないらしい。
 果たして、念願かなって象潟の風景を見た芭蕉は、こう詠んでその魅力的な風景を絶賛したという。

 — 象潟や 雨に西施が ねぶの花 —
  
(なんと魅力的な象潟の風景よ。雨にかぶる中にあたかも西施(中国四大美女)が憂いに沈み、目をふせている姿を思わせて、ねむの花が淡い紅色に咲いている。)

 残念ながら、いま私たちは、この芭蕉と同じ感動を味わうことはできない。芭蕉が見た潟は文化元(1804)年の大地震で隆起して陸地となり、潟は消え、潟にあった島だけが当時のままに残っているのだ。
 だが、初夏の頃、田に水が張られると、消えたはずの潟が目の前に広がり、芭蕉が見た象潟の麗しき風景が蘇るのだ。もちろん、まったく同じ風景ではない。ただ、水田を消えた潟に重ねて見ることで古の風景に思いを寄せるのも旅の一興だ。
 現代の象潟・九十九島は、鳥海山を借景に、かつてとは違う趣をもって見る者の心に染み入ってくる。昔から風景鑑賞の地として知られる蚶満寺かんまんじからはじまる島めぐりコースに沿って歩いていけば、駒留島こまどめじま、みのわ島、弁天島、奈良島などと名付けられた小さい島をはじめ、かつて芭蕉が舟で鑑賞した島々を、間近に見ることができる。島と島の間には、ていねいに手入れされた田が何枚も広がっている。存在する島の数は百あまり。とてもすべてを見ることはできないが、時間を忘れてこの象潟独特の風景に見入ってしまう。
 芭蕉は、奥の細道に象潟をこうも記している。

 — 松島は笑うが如く、象潟は憾うらむが如し —

 陽と陰。日本海特有の憂いを帯びた島の情景を、いつしか目の前の風景に重ねながら、また懲りもせず島めぐりコースを歩き始めていた。

ふるさと再発見の旅 東北』産業編集センター/編より抜粋



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