2021年
ある団地での出来事だ

遠くから見ると
その女はまるで子どものようにも見えた

それは愛らしいというよりも
いかにも病み上がりな弱々しさだった
（ただし彼女を知っている人間にそのことを言うと
そんな弱い人じゃないとみんなが口を揃えた
あるいは僕にだけそう見えていたのかもしれない）

「それで今日は⁈」
彼女は回転式の椅子をこちらに向けながらそう言った

「今日はいったい⁈」

僕は椅子に座りながら口に出す言葉を探していた
ここに来るといつも軽い失語症になってしまって　おまけに吃音まで出てしまう

「うん…そうだな
これは一つの参考意見として聞いてほしいんだけど…野菜が…食べたい」

「野菜が…食べたい」

彼女は「ちょっとよくわからないな」
という表情を見せた
確かにそうだと思う
僕だってこんな注文をされたら困ってしまうだろう

「それはつまり
今ある野菜で何かしらの料理を作って欲しいってことかな⁈」

「ああ」僕は頷いた

「それで合っている」

彼女は冷蔵庫の野菜室を開けてしばらく思案した

僕はその間ずっと
もう生体が入っているとも判らない
窓辺の小さな水槽を見つめていた

「…麻婆茄子…でいい⁈」

「麻婆茄子でいい」
食い気味に言った

「もう一つだけいい⁈
味噌には豆板醤を入れる⁈
それとも和風に仕上げた方がいいかしら」

やれやれ

その選択がいったいその料理にどんな影響があるというのだろう

「それは…きみが決めてほしい」

「きみが決めてほしい」

彼女に何か聞かれるたび
僕は面倒臭そうにこう呟いた

「やれやれ」

何故だかわからないが
村上春樹とはそういうものだと信じきっていたのだ

「あなたは思い違いをしているわ」

「これはわたし達の問題
つまりは日常よ」

　　　　　＊
　　　　　＊
　　　　　＊

ということで今夜は麻婆茄子です🍆

　　　　　ꉂ(ˊᗜˋ*)

今日のご飯は何ですか⁈

＊この文章は
文体模写の鬼才・菊池良氏の文体を
まるっと模写したものです( *´艸`)

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