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【読書感想】RIPヴァージル・アブロー ー『ダイアローグ』を読んで

ヴァージル・アブロー 平岩壮悟訳 アダチプレス 2022年出版

 アブローの若すぎる死を後に、早くも出版された、アブローがこれまでしてきた対談を集めた書籍。

 私がアブローさんの名前を知ったのは、ルイ・ヴィトンのアーティスティック・ディレクターに就任してニュースになった時だが、それまでカニエ・ウェストとともに働いたり、パイレックス・ヴィジョンというプロジェクトを立ち上げたり、実績を積んでいた過程が語られていた。

 ファッション関係の本は、いつも読んでいてワクワクする。なぜだろう。時代の最先端を行っているようで、どのデザイナーやプロデューサーの話でも、自分のことのように、彼ら/彼女らの人生に投影してしまう。

 この本読んでいて気になったのは、アブロー用語みたいなのがあるんだなということ。最後の訳者の解説にも「ヴァージル独自の語彙」としていくつか言及があったが、私は「威光」という文字に「ヘイロー」とルビが振ってあったのが一番気になった。例えば「一方に物(オブジェ)があり、他方に威光(ヘイロー)がある。同じように、現実と知覚、内容と文脈がある、それらはそれぞれ独立した要素ですが、互いに関係し合ってます」(p. 101)などである。ヘイローhaloってどういう感覚で言っているのか、もっと知りたいと思った。他にも、purist 純粋主義とtourist 観光客とか、いろいろあったが、彼の言葉づかいにもひとつひとつ含蓄を感じる。

 「物(オブジェ)だけでは決して作品にはなりません。私の生涯全体がひとつのプロジェクトだというのはそういうことです。」(p. 107) というように、彼の生き方、考え方はひとつの大きなプロジェクトのように感じる。たぶん、どんなプロジェクトでも、言葉を積んで、しっかり組み立ててから事を進める人のような気がした。なので、言葉にとても重みがあるというか、ひとつひとつの言葉をちゃんと選んで話しているように感じた。

 2020年のブラック・ライブズ・マター運動が盛り上がった時、バッシングに晒されたようだが、黒人として生きて、このような地位につくと、ダブルバインド的なことが起きる。SNSでは迂闊な発言だったかもしれないけど、自分の立場を考えると、難しいことだろうな、とは思った。ブラック・ライブズ・マターの裏の側面をみたような気がした。

 この本読んで、うきうきわくわくした気持ちになったことを、ずっと心に秘めて生きようと思った。


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