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延長があるような小説ーーキム・ジュンヒョク著『楽器たちの図書館』を読んで

 キム・ジュンヒョク著 波田野節子・吉原育子訳 クオン 2011年出版

 クオンという出版社の「新しい韓国の文学」のシリーズ2巻目。ここの出版社が出している韓国の翻訳文学がおもしろくて、全巻制覇したくて、図書館で借りて読んでみた。

 ややこしくない文法とことば遣い。とても簡単な文章なのだが、ちゃんと言いたいことは言っているみたいな小説。読みやすいんだけど、なんか言いきれていないような、もやもやしたものもなく、すっきり読み終わる。読後も人生の続きを楽しもうと思う、そんな本だった。韓国の現代文学に出会って、私は、自分が求める文章の書き方はこんな感じの世界だ、と探し当てた気がする。

 この小説も題材にしてることが、ほんとに現代的で私と同世代の人たちが考えてきたことだな、って感じがして親近感わく。DJのこと、現代美術作家のこと、公演会コンサルタントのこととか、現代という時代を感じるテーマ性。物語に大きな展開はないのだが、村上春樹みたいに、モヤっと終わることはなく、この本の大きさくらいの展開で終わっていく。本を読んで世界が変わる、ということはあるけれど、この本や韓国現代文学シリーズは、世界が変わるというか、私の中の世界に存在する小さい宝物箱のなかを覗いているよう。そんなに高価なものじゃないんだけど、大切にしたいというか、これをもってるから、日常が続いていくというか。そう、この本に収められてる短篇はみんな、本を閉じても、この物語の続きがどこかで現在も進行中で、延長があるような気がする。今私が生きているのと同じように、この小説の主人公も今どこかに生きていて、この話の続きを生きている気がする。そんな小説だった。

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