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【読書感想】貧困層の人たちの描写ーーキム・ヘジン著『中央駅』を読んで

キム・ヘジン著 生田美保訳 彩流社 2019年出版

 地元の図書館の韓国文学のコーナーにあったから、借りてみた。

 ある日、若者が中央駅に来て、ホームレスの生活を始めるところから物語が始まる。社会的に最底辺にいる男の話で、救いもない話がずっと続く。ホームレスを支援する人とのやり取りもあるが、男が落ちに落ちていく姿が書かれていて救いようもない。女が出てくるのだが、愛を交わす時に、愛しているのか、肉体的な欲望だけなのか、と終始自問するのも痛々しい。ホームレスという境遇で、女に出会ったから、女がほしいだけだから付き合いをしているのか、お互いなんの向上心もなく、なんの助けにもならない。そんな関係を続けていくのだが、最終的に女性はアル中が治らず、体も壊し、病院に運ばれるのだが、男は女を見捨てる。最後はハッピーエンドではないが、男が底辺の仕事をしている場面で終わる。

 あとがきに、韓国も格差社会が深刻な問題になってきているらしく、こういったホームレスの問題は深刻らしい。が、この、最底辺の人間の立場をよく描けている作品のように思った。私も自分のこと考えちゃって、こういうふうにならないだけましかな、と思ったり、助ける立場になりたい、と思ったり、人間ここまで落ちれば、自尊心とかもなくなるんだろう、と思ったり、彼を照らして、自分を顧みることを何度もしてみた。こういう立場の人を他人事と思えない自分がいる。最近こういう小説読むといつも思う。

 でも、この小説読んでいたら、あまりにもホームレスという社会からはじき出された立場の人のことを、詳細に描いているので、生々しく感じてちょっと読んでいてげんなりした。韓国文学でこういう貧困層のことを描写している小説は多くて、それがあまりにもよく書けていて、ちょっとお腹いっぱい感が私にはある。デジャヴ感というか。

 最後に、韓国人が書いた解説がついていたのだが、それがとても秀逸だった。カン・ユジュンという文学評論家。韓国文学を読むようになってから、韓国の文学評論家が気になる。日本の小説読んでる外国人もそうなんだろうか。評論家も国際的にならなくちゃ、小説も売れないよな、と思った。

 ちなみに、この本の著者キム・ヘジンさんのことをずっと男性作家だと思い込んで、私は読んでいたが、実は1983年生まれの女性だそうだ。翻訳本ではよく分からないが、なぜか男性的な文体だと思った。韓国語をもっと勉強しようと思ったのでした。


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