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『ハングルへの旅』茨木のり子著を読んで

茨木のり子著 朝日文庫 1989年出版

 高橋源一郎さんの本読んでたら、この本が紹介されていたので手にしてみた。韓国文学がおもしろいと思い始めてから、ハングルを学んでみたいと思うようになって、参考書まで買ったのだが、ちょうど良い機会だった。ハングルを勉強しようと思った人、初心者にはうってつけの本である。

 茨木のり子さんがハングルを勉強して、隣国の文化、文学などが雑多に描かれたエッセイ。料理のことや、詩人のこと、ハングル語の初心者向けのガイダンスといったものなど、韓国について興味がある人はぜひ読んだ方が良いと思う。

 私は、高校では英語科、大学ではフランス文学科、その後フランス文学研究科の大学院に進んで、全くアジアのことを学んだことがない。へっぽこな中学、高校に行ってたので、まともに日本史を学んだことさえなかった。フランス思想を研究していた大学院を退学してから、解放感でいろんな小説を読むようになった。その中で出会ったのが韓国文学だ。翻訳者の斎藤真理子さんがいつだか、朝日新聞に最近の韓国文学の流行について述べていたが、その例外にもれず、私もハン・ガンの『菜食主義者』という小説を読んでから、韓国文学にのめり込んだ。クオン社から出版されている本は読み倒した。そして、そこに書かれている文体が気になった。翻訳が良いからなのか、ハングル独特の文体があるんだろうか、と疑問に思い、ハングル語を勉強してみたいという気持ちになった。そこで最近出会ったのがこの本だ。

 ハングルは今から500年前にできた新しい文字であるとか、日本語の敬語のように、自分の会社の上司にのことは敬語で他人に話さないで謙譲語を使うというよりも、絶対敬語であるとか、日本語と同じ音の単語があるだとか、オノマトペがたくさんあるとか、そういったことは知っていたが、この本を読んで、こんなにも、隣国の言葉を学習することが楽しそうなことなのか、と改めて思った。1980年代に書かれている本だからその時に比べたら、今は大分、韓国ミュージックを始め隣国の情報にも若者も接することが多くなったように思うが、この本はこんなに時間が経っても色あせない何かがある。

 たぶんそれは、茨木さんが歴史の上にある言語だという認識されているということだと思う。最後の「こちら側とむこう側」という章では詩人尹東柱に触れており、彼の生涯が日本の刑務所で閉じられたことなどが書かれていると、本当に私たち日本人は考えさせられることがいっぱいある。私は、自分で自分がアジアである日本で育ったのに、こんなにも隣国韓国を遠くに感じているとは思っていなかった。そして、40になる今更、ハングルおもしろい、なんていっているのにちょっと恥ずかしく感じる。

 茨木のり子さんの文章も軽やかで美しい。特に詩作品を訳されているところなど茨木さんにしか訳せないと思った。また、庄内弁とハングルの対比も面白かった。諺、俗談ソクタムというらしいが、ハングル語と一緒に書かれていて、興味深かった。私のお気に入りは、「土の匂いが香ばしい」遠からず死んで埋められるだろう、と喧嘩の時に罵倒語としても使われるらしい。

 BTS好きな人にも読んでもらいたい本である。


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