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【短編小説】少年の覚醒

 ぼくは、もうすぐ死にます。なぜかというと、病気になってしまったからです。

 
 その日は特撮番組『アンドロイド刑事KG』の十八話の放送日でした。ぼくは楽しみで仕方なかったので、放送がはじまる十分前、朝八時二〇分からテレビの前で待っていました。どうしてそんなに楽しみだったのかと言うと、『ジャンヌT-34』のメイン回だからです。
 ジャンヌT-34というのは、婦人警官型のロボットで、とても強くて、頭が良くて、優しいです。でも少しがさつで口が悪いというところもあって、そのギャップがたまりません。
 
 八時三〇分、放送が始まりました。ぼくはテレビにかじりつきました。

「あんた、もう四年生なんだから、卒業したら? そういうの」
「ねえ、今話しかけないで」

 お母さんがガミガミうるさいので、ぼくはテレビの音量を上げました。
 
 今回の敵は、小さい子供をさらって洗脳してしまう怪人でした。なるほど、これはジャンヌが黙っちゃいられないなと思いました。彼女は子供が大好きという一面があります。だから、きっとすごく怒って、この敵をボッコボコにやっつけるんだとワクワクしながら観ました。
 
 だけど、そのワクワクは見事に打ち砕かれてしまいました。
 
 番組終盤、大ダメージを受けて倒れているKGに代わって一人で必死に戦うジャンヌ。怒りを力に変え、ようやく怪人を追い詰めます。

<貴様、こんなに強かったとは……>
<私はお前を絶対に許さない!>

 必殺技を繰り出そうとしたその時でした。怪人は近くに隠れていた女の子に向かってビームを撃ちました。ジャンヌはすかさず女の子をかばい、ダメージを負ってしまいました。女の子は逃がせましたが、ジャンヌは起き上がることができません。すると怪人は、ジャンヌを持ち上げて投げ飛ばし、これでもかと殴りつけました。そして、右腕をガシッとつかむと、そのまま引きちぎってしまいました。血の代わりに飛び散る機械の部品。悲痛な声が響きます。KGは動けないので誰も助けることができません。

「そんなのあり……?」

 フィクションだとわかってはいるけど、怖くて、悲しくて、泣きそうになりました。
 そうこうしているうちに、ジャンヌは左腕も失い、最後は体を上下に真っ二つにされ死んでしまいました。
 
 
 その日の夜のことでした。ベッドの中で、ジャンヌの体がバラバラになっていくシーンを思い出しました。すると、なんだか体がぐうっと熱くなって、変な気分になりました。いい気分でも悪い気分でもない、変な気分です。
 
 そして、なぜかちんちんが大きく、かたくなりました。
 
 なんであのシーンを思い出してちんちんが大きくなるんだろうと思って、パジャマ越しに少しさわってみたその時です。ちんちんの先から勢いよく何かが飛び出しました。

「うわあ!」

 おしっこを漏らしてしまったと思って焦りましたが、さわって確かめてみるとなんだかおしっこじゃないみたいでした。電気をつけて、パンツを脱いで見てみると、そこには白くてネバネバしたものがありました。
 
 ぼくは、病気になってしまったのです。ちんちんから白いネバネバが出る大変な病気になってしまったのです。
 
 次の日の晩ごはんは、何の記念日でもないのにとても豪華なものでした。ステーキにナポリタン、お寿司。ぼくの好物ばかりでした。その時ふと思いました。きっと、お母さんとお父さんはぼくの病気に気づいたんだと。死んでしまう前に好きなものを食べさせてくれようとしているんだと。
 
 ぼくは、まるで赤ん坊のように大声をあげて泣いてしまいました。

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