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【1分小説】物理の先生と女生徒

お題:どうして
お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より
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 どうして、って言われても、困る。

 世の中には、理由が分からなくともそこに存在するものはあるし、物理はその事実の根拠を見つかるための学問ではあるが、未だ解明されていない謎も多い。

 そもそも私たちを構成する最小単位の原子だって、なぜ陽子と中性子から成り立つのか、なぜ電子がその周りをうろうろしているのか結局のところ分かっていないし、理由は分からなくとも、とにかくそこに「ある」ことを前提として話が進められる。

 それならその「よく分からない原子」で構成されている私たちだって、なぜ存在が成り立ってるのか、どうして命が宿っているのか、考えるより、まずそこに「ある」ことを認めてしまった方が良い。

「本当にそうですかね」
「そうだよ。考えるだけ時間の無駄だ」
「ふうん。ところで先生」

 真田は背中に回していた手を出した。手には四角い包み。

「今朝三時からめちゃくちゃ頑張って作ったこの弁当を、ただ毎週3コマ授業で顔を合わせるだけの先生に渡しますね」

「え、なんで」

「なんでじゃないですよ。理由なんて考えてもしょうがないんですよね。事実として受け取って下さい」

 真田は僕に弁当を押し付けて、足早に去って行った。