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【1分小説】新しい時代のワインの嗜み方

お題:「傘立て、ワイン、量り売り」
お題提供元:お題bot*(https://twitter.com/0daib0t)
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 傘立てにワインのボトルが逆さまに刺さっている。

 普通ワインの保存っていったら横に寝かせるんじゃないの? 上品なスーツを着た店員にそう聞いてみたが、うちはそういう方針ですと言うだけだ。

 これじゃラベルの文字も見にくくてしょうがない。私はなるべく頭を逆さまにしてラベルを読んでいた。

「股覗きすると見やすいですよ」
「またのぞき?」
「ええ、股覗きです」

 店員は上品な微笑みを浮かべてそう言うのである。
 ワイン界隈も色々多様化したのだろうか。私も年を取ったものだ。新しい時代にはついていかねばなるまい。

 にしても齢六十に股覗きの体勢は辛い。足を大股に広げ、その間に頭を下ろしていく。

「いたたたた」
「大丈夫ですか」

 気の利く店員が、すかさず私の頭部に手を添える。
 この逆さまの景色は一体何十年ぶりだろう。幼少期以来だ。あれから商社マンとなり会社を立ち上げ資産を築き、今ここでこうして股覗きをしている。
 確かにラベルの文字が読みやすい。

「じゃあ、それを頂こうかな」
「かしこまりました」

 上品な店員は、私が指さしたワインボトルに近付いた。

「当店量り売りとなっておりまして。お客様、恐れ入りますがもう少々こちらに近付いて頂けますか。その体勢のままで」

 私は股覗きの格好で歩み寄る。

「では参ります」
「何を?」
「口をお開け下さい」
「どうして」
「いきますよ」

 店員はワインボトルを傘立てに刺さった状態のまま、栓を抜いた。当然ワインがどぼどぼ出てくる。

 そういうことか!
 流れ出るワインを、私はすかさず逆さのまま飲んでいく。
 これが新しい時代のやり方なのか!
 あまり美味しく感じられないのは、私が昔の人間だからだろうか。