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スキャンダル暴露で踊り狂った統一教会問題を データと証言で振り返る【短信】

「みんな暴露、暴露、暴露……で酔って踊り狂ってた」「いま統一教会に向いているものすごい熱量が何を達成できるのか、私には想像できません」と、統一教会二世で公務員のA氏は言った。カルト問題解決の要点である被害者の救済はどこへ行ってしまったのか。

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加藤文

(A氏とメールで対話の後、彼が指定した「人に話を聞かれない場所」でインタビューを行った)


救われるどころか怯えるA氏

 旧統一教会・世界平和統一家庭連合について8月末に下記の有料記事を公開し、予告通り更新を続けて(9月16日現在)10,278文字に及ぶ聞き書きと分析になった。


 記事を公開したことで、カルト脱会者や関係者と接触する機会が生まれた。このうち統一教会二世として育った公務員A氏は、あるアイドルグループが統一教会の二世と暴露されたできごとのほか、政治家の秘書に統一教会信者がいたと問題視されたり、統一教会追及のありように苦言を呈した識者に「XX教と深い関係にあったから、そんなことを言うのだ」と揶揄する声が飛ぶと、とてつもない恐怖を覚えたという。

「自分は二世ですが、あんな宗教を信じてません。でも調査されたら信者と特定されるかもしれません。アイドルの子たちがそうだったんだから、特定されるでしょう。『説明すればいい。なんとかなる』なんて気楽に言ってられるくらいだったら何も悩みません。あの子たちの暴露だって、暴露されっぱなしです」

 A氏は以前とは性格が一変したと自ら言うほど怯えているが、統一教会を追及する報道や政治家の活動は当事者を救うためのものではなかったのか。どうしてこんなことになってしまったのだろう。


それは7月8日から始まった狂騒だった

 では統一教会追及とは何であったのかを、Google Trendを利用して人々の関心事の推移で検証しようと思う。

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 7月8日の安倍晋三氏暗殺事件の直後から、検索キーワード「統一教会 議員」が伸長している。しかし宗教二世統一教会二世については特に検索数が増えていない。検索キーワード「統一教会 自民」は「統一教会 議員」と比較してあまりにも検索数が少なく不人気だった。

 また宗教二世や自民党との関係は2000年代初頭のほうが関心度が高く、20余年間継続して話題にのぼっていたことが以下のグラフから読み取れる。

(タップまたはクリックで拡大可)(Google Trendは2016年1月と2022年1月にデータの収集システムを変更している。しかし比較不能なものではない)

 つまり昨今の統一教会問題は「暴露を元にした議員にまつわる醜聞問題」として扱われ、暴露情報は「スキャンダルのネタとして消費」されたことになる。

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 7月8日からの動向を整理しよう。

 【第一回目のピーク】
 暗殺事件直後から議員と教団についての詮索や暴露が続いて、7月18日に「統一教会 議員」への関心がピークに達した。この間、10日間だった。

 【喧騒期】
 その後、検索数が減るのは特定の人物やメディア(テレビ番組)に注目することでいちいち検索しなくてもスキャンダルを追えるのが理解されたためで、これは他の事例でも起こる現象だ。

 この7月半ばのピーク以後、8月22日あたりまで続く騒々しさに満ちた期間を「喧騒期」と呼ぶことにする。

 「喧騒期」はどの議員がどのように統一教会と関係しているか関心が集まったのと同時に、信教の自由や言論の自由、職業選択の自由を超法規的な措置で統一教会に関して制限してもよいという論調が高まっていった時期でもあった。当人たちはどこまで理解していたかわからないが、「法律より社会の雰囲気や風潮で基本的人権の一要素である権利を制限されてしかるべき」であるという趣旨の主張が飛び交ったのである。

 【国葬】
 先ほどの検索キーワードに「国葬」を加えると以下のようになる。「統一教会 議員」などと比べて常に検索数が圧倒的に多いのがわかるが、「喧騒期」に低調になり、8月22日あたりから再び人々の関心事になっている。

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 8月半ばのお盆休暇に入ると報道はネタ枯れの閑散期となり、統一教会報道は鮮度と更新頻度が落ちた。お盆休暇が完全に終わった8月22日月曜日から、1ヶ月後に迫っている国葬の話題へと世の中の関心は完全にスイッチしている。

 【壺・ずぶずぶ・スキャンダル】
 だがA氏は「喧騒期」以降、恐ろしさが増したと言っている。自分たちが蚊帳の外にされ、むしろ敵視されているようにさえ感じられたのだ。

二世タレントの暴露まではじまったのは何だったんでしょうか。あの子たちは私と同じ……いまはどう思って活動しているかわからないですけど。公務員に信者がいるんじゃないかと、暴露までやられたらたまったもんじゃないです」

 この暴露についてカルトの専門家だけでなくメディアからも批判の声は上がらなかったとA氏は言い、「求められたら何だって暴露する」段階に入ったと意識せざるを得なかったそうだ。

「統一教会をつぶせと自分も興奮してました。いまだから言えますが、みんな暴露、暴露、暴露……で酔って踊り狂ってた。考えてみたら、つぶしたからって親がまともになるわけないし、自分と親の関係が変わるとは思えません」
「まともじゃない親に困っている自分は、自分で親との関係をどうにかしなければなりません。いま統一教会に向いているものすごい熱量で何を達成できるのか、私には想像できません」

 もちろん当事者であっても彼とはちがう感想や考えを抱く人もいることだろう。


暴露スキャンダルの行く末はモリカケ桜化

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 前章で紹介した人々の関心事の動向に、暴露者やメディア、専門家や政治家の動きを付け加えたのが上図だ。

 「喧騒期」が終わったのは、暴露名簿から目ぼしい人物の名前が出し尽くされたことと、報道の夏枯れが重なったからだ。

 ここに野党議員と統一教会の接触事案が報告され、付き合いの是非は「濃淡」で決めるという説を専門家が言い出すにおよんで暴露の価値が大幅に下落した。この後、専門家としてメディアに登場していた人々の発言頻度も極端に下がっていく。

 9月8日に自民党の旧統一教会調査が公表されたことにより、約1ヶ月ぶりに検索キーワード「統一教会 議員」が伸長してピークをかたちづくった。だが、検索数はたった2日で下落して、話題の沸騰期間があまりにも短かった。

 しかしA氏だけでなく、記事『オウム真理教を信じた私は』でカルト脱会者が語っているように「法律より社会の雰囲気や風潮」、「基本的人権の一要素である権利を制限されてしかるべき」といった主張や要求は世間に通奏低音のごときありさまで広がったままだ。

 これらの状況から、暴露の価値が大幅に下落したが、統一教会はもとより悪魔化された自民党像が特定層に固定したのではないかと思われる。

 したがって安倍晋三氏の国葬儀の日取りが近づくともに、「統一教会 議員」への興味もまた高まると思われる。だが、「統一教会 議員」への興味の背景にあるスキャンダルへの好奇心を満たせるだけの暴露がないかぎり、関心は瞬く間に薄れるだろう。

 ここで思い出されるのは、2010年代から続く野党の「モリカケ桜」追及だ。疑惑そのものが曲解であったり、法で罰せられるようなものでなくても、疑惑は晴れていないとされ続けたうえに、首相だった安倍晋三氏はアベ死ねと悪魔化された。統一教会問題もまた、まちがいなく同じ道をたどる。

 統一教会と与党議員にまつわる疑惑は「モリカケ桜型の陰謀」として熟成されるのだ。


政治闘争によって忘れ去られた当事者たち

 いっぽうで被害者救済の声はスキャンダルにともなう喧騒や、悪魔化によって生まれた憎悪にかき消されたままである。

 A氏は身元を追及されそうで恐ろしくなってSNSの匿名アカウントも削除したが、これだけでは恐怖はまったく解消されず不安感によって日常生活に差し障りが出ている。

 どこかで親の信仰が調べられたら、二世であり公務員であることが咎められたらどうしたらよいのだろうと強烈な不安が頭から離れない。不眠が続いているほか、刺激に対して過剰に反応してしまう感情を制御できない。

 私は社会運動に巻き込まれて心を病んだり生活が破壊された人々や、神真都Qなどカルト集団の構成員や家族と関わってきたが、A氏に対しても彼ら同様に公的機関への相談をまず勧めたうえで逃げ場を確保するように助言した。だが、公的機関への相談は不調に終わった。

 相談窓口がうまく機能しなかった理由は多岐にわたり、公的機関だけが悪いわけではない。しかし、この例のようにカルト被害者の救済はなかなか難しい。また今回は統一教会追及の動きが当事者を苦しめる皮肉な状況をつくりあげている。

 統一教会を追及する人々は「ずぶずぶ」という言葉が大好きだ。ここで用いられる「ずぶずぶ」は人間関係を表す語なので、彼らの関心事が暴露とスキャンダルであることがはっきりわかる。誰がどうしたばかりを気にしているのだ。そして、ずぶずぶな人物や政党を政治から排除することが目的になっている。

 この差別と排除が「踊り狂い」ながら迫ってくることを、A氏は「いま統一教会に向いているものすごい熱量が何を達成できるのか、私には想像できません。いったい誰のため何のための統一教会問題なんですか」と言う。

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 統一教会問題の成り行きだけでなく、2010年代に行ったSNSアカウントの追跡観察や、反原発運動の現場で見聞きしたできごとに、戦後の政治史の一面を統合すると以下の流れ図のように整理できる。

 60年代の岸信介内閣による新安保条約調印に端を発し、安保闘争敗退と左派の弱体化を経て、原発事故を支持層獲得の好機とみて大衆に政治的な働きかけをした人々や政党が、「岸信介の血筋をひく安倍晋三」の悪魔化を試み、いま統一教会追及を担うに至っている。

 そして反原発運動や、その後の運動に影響された層と、暗殺事件後に同様に影響された層が、A氏に言わせれば問題追及に「踊り狂っている」のだ。

 暗殺犯を主人公にした映画を撮影し公開するという元過激派メンバーの映画監督は、映画制作の目的は「国家に対するリベンジ」であると公言してはばからない。彼らの目的が国家へのリベンジならば、A氏のような当事者の姿は眼中になくてとうぜんだろう。

 国家へのリベンジが目的でなくても、この機に乗じて以前から政治化させたかったテーマを繰り出してくるだろう。理屈と膏薬は何処へでもつくというが、統一教会と自民党にはいかなる不義もくっつくようになるのが「モリカケ桜化」だ。たとえばジェンダーフリー化が進まないのは統一教会と政権与党がずぶずぶだからという説が登場している。

 いったいいつになったら当事者救済の具体策が議論されるのだろうか。


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