詩集・エッセイ:名前の一生 総集編
前書き
この詩集「名前の一生」は、人間と名前が生涯を供にする様子を描きたかった作品です。
詩をバラバラに投稿してしまったので、読みづらさや誤解を与えてしまったかもしれない。と思い総集編を再投稿します。思い入れがある作品なので、ご容赦ください。
投稿した詩集を一部でも読んで下さった方、ご迷惑をおかけしてすみません。スキを押してくださった方、過去の詩を消してごめんなさい。
拙い文章ですが、楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
※ この詩集はフィクションです。
1:産まれた
産まれたから
産声を上げました
名前はまだ
ありません
私は何と名乗れば良いのでしょう
そもそも
名前が何かを知りません
人間が何かを知りません
困惑していたら
母親と名乗る人物が
私に名前をくれました
まだ漢字を知りませんから
発音だけですが
一生懸命に覚えたいと思います
2:歩いた
二本足で歩いたら
驚かれました
初めて歩けて偉いと
親に褒められました
偉い子ね
それも名前なのでしょうか
でも実は
歩いたのは
これが二回目なのです
喜んでいる様なので
初めてということにしておきました
3:漢字を書いた
言葉を覚え始めました
今日は
初めて漢字を書きました
私の名前です
発音は知っていましたが
私の名前は
この様な形をしていたのですね
ひらがなと違って
難しいですが
一生使う漢字らしいので
これも一生懸命に覚えます
4:小学校に入った
小学校に通い始めました
自分と似ているようで似ていない
人間がたくさんいます
同級生
と呼ぶらしいです
妙に納得しました
自分と他者を区別するために
名前はあるのだな
そう理解しました
5:あだ名で呼ばれた
ある日
名前とは異なる
名前を呼ばれました
どうやら
私の名前を略した物のようです
あだ名
愛称とも呼ぶそうです
仲が深まった証拠のようで
嬉しかったので
私も
その相手に
あだ名を付けてみました
母親や父親以外の人間も
他者に名前を付けられるのだなと
なんだか
不思議な感覚です
6:履歴書を書いた
大学を卒業する間際の事です
私は履歴書を作りました
名前の他に
自分の歩んできた人生について
詳しく
しかし曖昧に記す必要があるようです
学歴と職歴と呼ばれる欄があります
これからは
本来の名前よりも
卒業した大学や
入社した会社の名前が
社会的には大切になってくる様です
7:結婚した
結婚すると多くの場合
女性の苗字が変わるようです
私は男性なので
その苦悩は計り知れませんが
個人的には
妻になる女性と
同じ苗字を持つ事が
嬉しくて堪らないのです
婚姻届けを出した日
彼女が妻になった日
私は家族を作ったのです
8:子供が産まれた
子供が産まれるようです
自分の子供が
実感が湧きません
親になる準備には色々あるようですが
子供の名前を決める
これも大切な事の一つのようです
愛情を込めた
子供が誇りに思えるような
そんな名前を付けてあげたいのです
かなりのプレッシャーです
9:子供の名を呼んだ
私と妻は
子供を初めて名前で呼びました
この子は
自分が呼ばれている事に
気づいているのでしょうか
こんなにも小さな掌
この子はこの先の人生で
どれだけの物を
掴むことができるのでしょうか
私は期待と不安を抱えながらも
この子を育てる決意をしました
10:老いた
会社を退職し
子供も巣立ち
やがて老いた私は
特別養護老人ホームに
入ることになった
そこには
沢山の老人たちがいた
そして
私は職員から
おじいちゃん
と呼ばれるようになった
他の老人も
おじいちゃんと呼ばれている様だ
私の名前は
おじいちゃんになったのか
11:看取られた
どうやら
私は人生の終わりを迎えるらしい
墓は子供の負担にならないよう
生前に作っておいた
墓標には
私の名前が刻まれている
先だった妻の名前も
子供が悲しげに泣いている
そして最後に
お父さん
そう呼んでくれた
呼び名など何でも良い
私の名前を呼んでくれたのだから
ありがとう
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