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Interview vol.7 リム・カーワイさん(映画監督)ミニシアターへ足を運んでくれる人の存在が希望に


第7回は、シネマドリフター(映画漂流者)の映画監督、リム・カーワイさんです。コロナ禍で、全国のミニシアターを巡りながら撮影した劇映画『あなたの微笑み』に続くドキュメンタリー映画『ディス・マジック・モーメント』の撮影秘話や、ミニシアターの現在、未来について、お話を伺いました。


火災後の更地になった場所で、小倉昭和館館主の樋口智巳さんと
(C) cinemadrifters

■前作『あなたの微笑み』でも、全国のミニシアターを巡るつもりだった


―――元町映画館で1/20-26上映の最新作『ディス・マジック・モーメント』を見ると、全国22館のミニシアターを訪問し、カーワイさんがインタビューすることで、運営する人の顔や考えがしっかり見えてくる。だからこそ、ミニシアターを知らない人に観てほしいなと切に思うし、こんなドキュメンタリーを作っていただき、心からありがとうとお伝えしたいです。前作の自主映画監督が全国のミニシアターを巡る劇映画『あなたの微笑み』(22)を撮った後で、本作を構想したのですか?
カーワイ:最初は両方を同時進行できればと思っていました。限られた撮影日数の中で、時間があれば劇場の方のお話を伺おうと、撮りたいシーンを撮り終わってから、主演の映画監督、渡辺紘文さんが館主をインタビューする形をとりました。
 
―――『あなたの微笑み』でも当初、もっと多くのミニシアターを巡る予定だったと?
カーワイ:はい。全国のミニシアターを巡るつもりでしたが、沖縄の撮影を終えた時点で、沖縄パートだけでも20〜30分になることがわかった。物語の起承転結を考えてみても、全国巡ってしまうと、ドラマが作れなくなってしまう。スケジュールや予算的にも難しかったですし。ただ、せっかく別府ブルーバード劇場や豊岡劇場で撮影するならとインタビュー撮影を行い、最終的に沖縄・首里劇場の金城政則館長(2022年4月にご逝去)をはじめ、館主のインタビューをエンドロールという形で収めることができ、よかったと思っています。
 
―――確かに、劇映画部分で登場した館主たちが、今度は主人公となり渡辺さんに語っているエンドロールはとても貴重でした。
カーワイ:エンドロールで使われていない部分もたくさんあり、どれも面白いし、もっと映画館を撮りたいという気持ちが芽生えたことが『ディス・マジック・モーメント』の企画につながっていきました。それに、本当に個性的な館長が多いんです。別府ブルーバード劇場館長の岡村照さんは『あなたの微笑み』撮影当時90歳でしたが、とてもお元気で、記憶もしっかりされていて、たくさんお話を聞かせていただきましたし、小倉昭和館館主の樋口智巳さんも、『あなたの微笑み』に登場いただき、『ディス・マジック・モーメント』撮影時は火災で全焼後、映画館のあった場所が更地の状態でしたが、すごくパワフルかつ前向きで、再建をやりとげる力のある方です(小倉昭和館は2023年12月19日にグランドオープン。カーワイ監督の『ディス〜』も記念上映された)。
 
たった7館巡っただけでも、そのようにカリスマ性のある映画館の人と出会うことができたので、もっと多くいらっしゃるはずだと確信しました。ただ、企画はあっても、資金を集めるのが大変。幸いにもAFF2(「ARTS for the future! 2」<コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業>の通称)があったので、ドキュメンタリーを撮る企画を提出しました。ただ、補助の対象になるかどうかわからず、しばらくは書類の修正などを繰り返し、2022年9月1日にようやく企画採択の通知が来たのです。
 

(C) cinemadrifters

■閉館間近のテアトル梅田でクランクイン


―――映画の最初が、同年9月30日に閉館した大阪の老舗ミニシアター、テアトル梅田閉館直前のインタビューでしたから、本当にギリギリだったと。

カーワイ:テアトル梅田閉館のニュースには衝撃を受けていましたし、サツゲキ(北海道)が事業譲渡されたり、豊岡劇場が一時休館となったり(2023年3月25日に再開)と、ミニシアターの苦境を伝えるニュースが次々飛び込み、ますますこの映画を作らなくてはいけないと思った。結局、閉館間近のテアトル梅田でクランクインし、そこから全国のミニシアターを駆け巡って、もう死にそうなぐらい大変でした(笑)
 
―――『あなたの〜』撮影時のインタビュー素材を活かしながら制作されたのかと思ったら、全て新たにインタビュー撮影されていましたね。
カーワイ:やはり都会と地方ではミニシアターの状況も全然違いますし、ミニシアターの方がメディアに登場しても、あまり地方の声を取り上げてもらえない。そこに違和感を覚えていたので、最初は全国、特に地方のミニシアターを記録として残そうという気持ちが強く、東京や大阪のような都会のミニシアターを撮るつもりはなかったんです。でも、僕が日本にやってきて間もない頃によく通っていたテアトル梅田が閉館すると知り、それならば撮るしかない。そして、そこを撮るなら、僕が映画監督としてデビューして以来、ずっとお世話になっているシネ・ヌーヴォも撮ることは必須です。そこで僕自身のことも語りながら、テアトル梅田ではじまり、最後は大阪に戻ってシネ・ヌーヴォで終わるという構成が固まりました。
 
―――テアトル梅田の閉館が、くしくも映画で自らの映画人生について語るきっかけになったわけですね。

カーワイ:2022年は東京の岩波ホールも閉館しましたが、やはり僕にとって馴染みがあったのはテアトル梅田なんです。新作をよく観に行っていましたし、2021年はついに大阪キタを舞台にした『COME & GO カム・アンド・ゴー』を上映していただけた。実はインタビューではそのときのことも話してもらったのですが、映画ではカットしています。各劇場で30分ぐらいずつインタビューしているけれど、3〜4分ぐらいに編集しないと映画が長くなってしまう。コロナ禍の大変さなど共通事項も多かったので、それぞれの劇場の特徴がわかるような箇所をピックアップしています。
 


大阪・シネ・ヌーヴォ代表の景山理さんと 
(C) cinemadrifters

■日本で映画館に対する国の助成が立ち遅れている理由は?


―――ミニシアターである意味採算度外視しても上映するべき作品があり、それをするためには公的な支援が必要という声もあり、ごもっともと思いながら拝見していました。
カーワイ:ミニシアター自身が自力で経営を継続できればいいですが、今はもうその限界を超えている。横浜ジャック&ベティでも2023年11月から映画館継続をかけてのクラウドファンディングが行われています。閉館した名古屋シネマテークの跡にオープン予定のナゴヤキネマ・ノイもクラウドファンディングを行っており、みな、ミニシアターがなくなると困るので1度目は支援すると思うのですが、これが2回、3回と続くと支援する方も限界がある。ましてや国の助成金は、今も映画館に対するものはないし、これからもそこに期待するのは難しいでしょう。
 
―――日本は芸術やアート分野への支援が本当に少ないですが、リムさんの母国、マレーシアはどうですか?
カーワイ:日本の公益財団法人ユニジャパン(東京国際映画祭の開催や、日本映画・映像コンテンツの海外展開支援を行う)のような組織がマレーシアの映画を支援していますが、支援する本数も金額も限られている。映画芸術を支援する施策をやっている感を出しているだけで、映画界の人材育成につながっていない。国が映画産業に対して真剣に支援し、観客を育てているのはフランスと韓国、あとはフィリピンも頑張っています。日本は立ち遅れていると思います。でもその理由はわかるんです。
 
―――というのは?
カーワイ:例えば韓国の場合、人口が少ないので国の文化として海外戦略の一つに映画が位置付けられている。でも日本の場合は、アニメーションや漫画の影響で、日本に大勢の外国人観光客が押し寄せ、インバウンド需要がすごいでしょ?あれも作品の魅力で自然に世界へ広がり、そこから日本に興味を持ってくれるわけです。だから映画産業、ましてや映画館を支援する必要性を政府も感じていない。
 
―――アニメーションの場合は確かに、海外で大ヒットし、世界中にファンができますが、劇映画やドキュメンタリーなど、ミニシアターで上映するような作品は国内でも認知してもらうのが大変。切ない気持ちになりますね。
カーワイ:切ないです。ただ、韓国ではイ・チャンドン(『シークレット・サンシャイン』『ペパーミント・キャンディー』監督)が文化大臣を務めていたので、映画人がトップに立つと文化施策も変わってくるでしょう。フランスのように映画教育を学校教育に取り入れ、小さいころから映画教育を普及させるのも重要で、そういう教育を受けた人が政治家になると、また違ってくるはずです。

■THEATER ENYA(佐賀県唐津市)の持続可能な運営


―――映画館を運営する立場で参考になるなと思ったのが、佐賀県唐津市のTHEATER ENYA館長、甲斐田晴子さんのお話でした。地元の企業100社ぐらいから協賛を得ながら、運営しているそうで、持続可能な運営がこれならできると思ったんです。
カーワイ:THEATER ENYAはこの秋、唐津ライジングサン国際映画祭2023を開催し、日本全国の短編映画や海外の長編映画を上映し、香港からはスペシャルゲストで、人気歌手、俳優のステフィー・タンさんもゲスト来場しているんです。ニュースに取り上げられないので、知らない人も多いのですが、人口12万人の唐津市でこれだけのことをやっておられる。甲斐田さんもTHEATER ENYAをモデルに、地元企業協賛方式を全国のミニシアターに広げてもらえたらとおっしゃっていました。
 
―――自作を上映した劇場ならインタビューのオファーがしやすいと思いますが、半分以上は初めての劇場だそうですね。
カーワイ:9月29日のテアトル梅田撮影後、九州の各県にある劇場を訪ねようとしたのですが、新幹線と特急電車で移動したので、本当に大変。AFF2採択の条件として、年内に上映しなければいけないので、熊本のDenkikanだけは先方のスケジュールが合わず泣く泣く取材を断念しました。大体1週間前ぐらいに撮影依頼の連絡をし、お客さまのいない劇場内でインタビュー撮影をしたかったので営業時間外を使って対応いただきました。その後、沖縄、北海道と飛び、11月初旬のクランクアップを目指して、行ける範囲で巡っていったので、広島や中国・四国地方に行けなかったのは本当に残念でした。周りながら25館が限度かなと思っていましたが、結局22館で落ち着きました。
 
―――それぞれの映画館の個性や歴史が浮かび上がり、同じミニシアターといってもこれだけ違いがあるのかと、まさに旅する気分でした。100年前の建物を保存維持することが主目的というケースもありますし。
カーワイ:都会はともかく、地方で映画館を常設館として運営していても、平日はほとんど観客が来ないです。イベントをやるときだけ観客が集まるという感じなので、朝から晩まで毎日上映するような形態ではなく、休館日を入れるなど形態を変えた方がいいと感じますが、とにかく上映本数が多いので今はそれをするのが難しいのでしょう。
 
―――もっと教育の一環としてミニシアターでの映画鑑賞を取り入れてもらえたらと常々思っているのですが。小さい頃にその経験をしていると、大人になってからミニシアターへの敷居の高さをさほど感じなくなるのでは?
カーワイ:例えば教育の一環として小津安二郎の映画を見せない限り、我々のようなシネフィル以外、一般の人は小津安二郎のことを知らないし、小津作品を見たことがある人はほとんどいないと思うのです。やはり、ミニシアターで上映するインディペンデント映画や日本の名作、世界の多様な映画を見る習慣がついていないから、映画といえば大手配給会社(東宝、東映、松竹)の新作やアニメーションぐらいしか知らない。
 

■ミニシアターの敷居を低くするためのアイデアと場所の大事さ


―――元町映画館で2023年12月に上映し、学生層を中心にヒットした『ゴーストワールド』のように、ミニシアターの敷居を飛び越える力のある作品がもっと増えるといいのですが。
カーワイ:例えば『アメリ』がいまだに高い支持を得ているように、登場人物たちのファッションやキャラクターにはまり込んだから『ゴーストワールド』もヒットしているわけで、ミニシアターに引き続き足を運んでもらうというのは、幻想ですね。僕もずっと映画を上映していただき、お客さまを見てきたのでそれがいかに難しいかを身をもって知っている。一方で、それでも何かのきっかけで、見にきてくれる人がいることを今でも信じています。人数的にはわずかでも、僕の作品を見て、それを気に入り、広げてくれる人がいれば作品は繋がっていく。それが、僕のような映像作家たちが諦めずに映画を撮り続けられる理由だと思うのです。
 
―――ミニシアターの業態に話を戻すと、沖縄のシアタードーナツ・オキナワのように、ドーナツを買いに来た人が映画に興味を持ってもらえるような仕掛けも、ユニークですね。
カーワイ:これから映画館は、映画を見せるだけでなく、他のことをやらなければ維持することが難しいのではないか。逆に、それは可能性があるということです。今、東京の神保町で「ASSAGE by ALL REVIEWS」という一つの棚ごとに店主がいる共同書店ができ、2023年内に3店舗まで拡大しているんです。本屋も苦境の業種ですが、この方式だと店主たちから月々の出店料が入ります。新刊本だけでなく古本も扱うことができ、集客力もあるので近くの古本屋より高い値をつけても売れます。非常にたくさんの一棚店主がいるので、その人たち自身もよく通ってこられるし、この運営形態は新しいですね。
 
―――ミニシアターも、自分の場所と思えるような仕掛けがあれば、通いたくなるのかもしれません。
カーワイ:クラウドファンディングも、みんながその場所を失くしたくないから、お金を出すわけで、やはり日頃忙しくて映画を見に行けない人は、自分が所属するコミュニティーとして普段は機能していないかもしれないけれど、それでも場所があることが大事なんです。
今は時間がとても大事で、例えば若年層が見たい映画の時間に合わせて映画館に行くことは難しいでしょう。映画の上映期間が短く、映画の本数自体が多いし、映画料金も高い。ありふれた情報の中で、お客さまもきっと何を見ていいのかわからず、困っていると思う。だから、自分の映画を見に来てくれた人は、本当に大事にしないとダメだと思います。たとえ、ひとりであろうか、ふたりであろうが、映画を見に来てくれたわけですから。地方の劇場の場合はそこに、行くまでの時間が都会よりも大きくプラスされるわけで、見に来てくれる人がいること、それが希望です。
 

長野・上田映劇 (C) cinemadrifters

■世界でも珍しい日本のミニシアター文化


―――ちなみに日本のミニシアター文化は世界的に見て、珍しいのですか?
カーワイ:すごく貴重ですね。海外では独立系の映画を上映する劇場をアートハウスと呼びますが、ヨーロッパでは映画館というより、公的な施設としてのシネマテークがあります。また古い劇場は、昔から労働映画や大衆映画をかけていたところが、その後アートハウス的な映画を上映するようになるケースもあります。ただ、日本のミニシアターは都会から生まれた文化ですよね。東映や東宝系の系列劇場や、成人映画上映館だったところが、90年代にシネコンができたことから上映作品を奪われてしまい、逆にミニシアターで上映する作品をかけるようになった。その辺のバックグラウンドも日本の場合は複雑です。
 ちなみに台湾は、ホウ・シャオシェンが作った映画館があり、それがミニシアターになっていますが、香港はシネコンのスクリーンの中の1スクリーンでアートハウス系の作品を上映しています。20館ほどあるシネコンの中で1館だけアートハウス系作品に特化したところもありますが、それでもトム・クルーズ主演作などもやるので、そんなにこだわってない(笑)。各館それぞれが特徴を持っているミニシアターは日本にしかないです。韓国も日本に留学した人が、帰国後日本のミニシアターを参考にして作ったようなミニシアターもありましたが、今は館数が減っています。
 
―――2023年はミニシアター閉館のニュースが多かったですが、一方で和歌山でもミニシアターが開館したり、新たな地方でミニシアター文化が生まれた年でもありました。そして、閉館まではいかなくとも、コロナ禍以上に厳しい動員が続いているミニシアターが非常に多いです。
カーワイ:コロナで年配層が行かなくなってしまったり、配信で満足してしまったり、要因はいろいろあると思いますが、世の中にとって映画がなくてはならない存在ではなくなってしまうということです。それでも映画を必要な人がいるし、そういう現実を受け止めつつ、劇場をどうやって守っていくかを考えなくてはいけない。例えば上田映劇はロケーションを貸して撮影協力することで劇場を維持する一助にしていますし、豊岡劇場は平日、豊岡観光コースに入れてもらうということも考えているそうです。また、映写機の見学とか、映写イベントをしてもいいでしょうし、カフェなども比較的手っ取り早いでしょう。そのヒントも『ディス・マジック・モーメント』で語られています。やはりミニシアターは、街に一つしかない文化施設で、そこを有効に使えばまだ、いろいろな可能性があると思います。
 

■ミニシアターを絶対失くしてはいけない


―――22館を巡ってインタビューをし、編集をし、改めて感じたことは?

カーワイ:劇場運営というのはビジネスとして成り立つのがとても難しい段階に来ているけれど、やる価値はあると思います。例えば、唐津や富山にいながら世界の物語を知ることができる。さまざまな国の文化や価値観、物語を知ることができる。それは映画館しかできないことです。都会の劇場だと受付はアルバイトの人が多いので、なかなか話すことは難しいですが、地方では劇場の人が受付に座っていることも多いので、お客さまが会話できるので、人とのつながりを築く場所です。そういう価値はお金だけでは語れないものです。
 そして、一度失くしてしまうと再会するのが大変なので、絶対失くしてはいけない。あとは後継者問題もありますが、そういうときはNPO法人にして、その場所を守りたい人に守ってもらう。みんなで守るという考えが後継者問題の一つの打開策になると思います。
 
―――ミニシアターを続けていくためのいろいろなヒントが見つかる作品でしたね。
カーワイ:今、若者の間で東京では純喫茶ブームが起きていて、お店に並んでいるぐらいなのですが、純喫茶ならぬ純映画館ブームが起きてもいいですよね。シネ・ヌーヴォのシアター内装はインスタ映えするので、上映前後に写真を撮ってもらうとか。また別府ブルーバード劇場の名物館長、岡村さんと写真を撮りたいとか、さまざまなニーズがあるんじゃないかな。映画館の佇まいや、映画館で働く人の価値に気付いてくれる人はまだまだたくさんいると思うのです。
 

在りし日の沖縄・首里劇場 (C) cinemadrifters

■『ディス・マジック・モーメントPart2』を撮りたい


―――そしてもう一つ、カーワイさんご自身の映画監督になるまでの道のりを、映画の中で語ることができたのも大きかったのでは?
カーワイ:最初に助成金決定の遅さに言及したものの、やはり助成金があったからこそ、この映画を撮ることができた。とても感謝しています。コロナ禍で撮れて良かった。幸い、豊岡劇場は再開し、小倉昭和館は2023年12月19日にグランドオープンを迎えましたが、沖縄の首里劇場はもうないです。解体して更地になってしまいました。11月末に、俳優の尚玄さんがアンバサダーを務める「沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」で、首里劇場がなくなることから『あなたの微笑み』を記念上映してもらったのですが、館主だった故金城政則さんのご遺族が見に来てくださり、みなさんから感謝され、僕もとても嬉しかった。金城さんの元気な時の姿や、在りし日の首里劇場も映っていますから。そういう機会をいただけたのも感謝したいですね。
 
―――いよいよ今年は、『ディス・マジック・モーメント』を引っさげて、劇場を巡る旅ですね。京阪神の後の予定は?
カーワイ: 3月以降は地方の劇場で、僕の舞台挨拶付き1日限定上映をしようと思っています。まだ取材をしていない劇場はいっぱいあるので、元町映画館を含め、中国・四国地方を巡る『ディス・マジック・モーメントPart2』を撮りたいですね。ミニシアターを知らない人に、一番わかりやすい形で見ていただけると思います。ぜひ劇場で見ていただいたら、見終わって必ず何か胸に思いが宿るはずです。映画館ごとに椅子やスクリーン、内観、外観も違う。チェーン店のシネコンと違い、一つも同じものはありませんから。
(2023年12月6日収録)
 

<リム・カーワイさんプロフィール>


1973年生まれ、マレーシア出身。大阪大学基礎工学部電気工学科卒業後、通信業界を経て北京電影学院監督コース卒業。卒業後、北京にて『アフター・オール・ディーズ・イヤーズ』(10)を自主制作し、長編デビュー。
監督作品に『マジック&ロス』(10)、『新世界の夜明け』(11)、『Fly Me To Minami恋するミナミ』(13)、中国全土で一般公開された商業映画『愛在深秋』(16) 、バルカン半島で自主制作した『どこでもない、ここしかない』(18)、『いつか、どこかで』(19)など。大阪三部作の3作目となる『COME & GO カム・アンド・ゴー』(20)は、東京国際映画祭でも上映され大きな話題になった。実在の映画監督渡辺紘文を主人公に、全国のミニシアターを行脚するロードムービー『あなたの微笑み』(22)は、日本に続き香港でも劇場公開が決まった。全国22館のミニシアターを巡った『ディス・マジック・モーメント』(23)に続き、バルカン半島3部作の完結編『すべて、至るところにある』が、2024年1月27日よりイメージフォーラム、京阪神は3月中旬以降公開。
香港、大阪、中国、バルカン半島などで映画を製作、国籍や国境にとらわれない創作活動を続け、東京、大阪、台湾、ニューヨークのアート系劇場で特集を組まれるなど、その活動は国内外から注目されている。「2021香港インディペンデント映画祭」主催者、「香港映画祭2021/2022」キュレーター、香港映画『星くずの片隅で』(22/ラム・サム監督)の配給を手掛けるなど、映画監督以外でも活動の場を広げている。

Text江口由美

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