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IT is my friend・・・? 連載完結

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100年後、Information Technologyで管理された世界でITと人類はうまく共存していけるのか。AIは人類に矛先を向けるのか。主人公の目を通して近未来の世界を見る。
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記事一覧

IT is my friend・・・?  1

序章 100年後”R"の開発者? ああ、もうこの世にはいない人物だ。

 オフィスの中空をゆらゆらと広告ディスプレイが漂っている。ディスプレイと言っても実体があるわけではない。空気中に流してある無害な微粒子を磁気的に並べて、そこに映像を映しているのだ。それは文字列やイラスト、たまに動画が水面の木の葉がちょっとした風に翻弄されるように漂っている。この広告の一部がたまにショートして線香花火の最期のひと

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IT is my friend・・・?  2

2、出勤  今日の出勤は最高だった。

10才になると1人にひとつずつドライブボックスが与えられる。これは昔の車のようなものでこれに乗って移動する。外観は前が少し膨らんだ箱型で、中は大きな大人でもゆったりくつろげるだけのスペースがあり、自由にデザインできる。幹線ではこれでボックス及び車両専用道路をほぼ隙間なく連なって高速移動するため目的地の到着予測は極めて正確だ。

 今日は前も後ろもステキな女性

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IT is my friend・・・? 3

3、ナンパ 今日はこれで仕事は終わりにしよう。ドライブボックスに入ると、静かに動き出した。磁気の浮遊感というのは実に心地いい。幹線に入って家まで20分ほどだ。入るとすぐ後ろにまたもや朝の黒髪の彼女だ。やっぱりかわいい。男はいるんだろうか。シフトを動かして横に並び、フォンを入れる。

「突然すみません。今朝も君の前だったんだけど、あまりにも奇遇なんで話しかけずにいられなかったんだ」

「あら、そう?

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IT is my friend・・・? 4

4、帰途 人類が昔から実現させようとしてきたことの一つに宇宙探査がある。今ではそんなことをしようなんて奴は一人もいなくなったが、100年くらい前には盛んに莫大な予算を使って研究されてたらしい。

だけど人類は星間旅行はおろか火星にさえ到達できなかった。だいたい遠い惑星に行くのは人体への負荷が大き過ぎた。何が転機になったかというと、有人火星探査だろう。初の惑星探査として期待されたんだが、あえなく15

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IT is my friend・・・? 5

 5、自宅 さて、自宅。

ボックスがピットインするとき、磁気が消える瞬間があるんだけどちょっとだけガタガタする。修理依頼しなきゃな。

『Jh5cc653nだけど、ガレージの調子が悪い。格納するときガタつく』

「QP依頼して」

「はい。おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

これは家政婦さん。おれん家、住所は9桁なんだぜ。今はだいたい10桁になってる。もう早期取得者は珍しいんだ。

「QP

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IT is my friend・・・? 6

 6、女とカードと花札と そうだ。山田さんのところに行ってみよう。今日は出勤してるはずだ。

「こんちは」

「え?今日は?」

「トラブルがなきゃ顔だしちゃいけないんすか?」

「いや、あんたの顔見るとトラブルを連想する。それだけのことだよ」

山田さんはモニターから一度も顔を上げない。おれの顔を見てもいないのに。

「まぁいいや。社員が減ってるの知ってますか?」

「ああ、知ってるよ」

「ど

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IT is my friend・・・? 7

 7、宇宙旅行①  翌日は約束の綾香とデートの日。幹線の側道をゆっくり走りながら合流を待った。おおかたお化粧に時間かかってんだろうな。

10分ほど待って合流した。幹線に入ってからボックスを繋げた。

「ごめんね。待った?よね」

お化粧はバッチリ決まってる。

「ああ、ちょっとね。大丈夫だよこれくらい」

「チケット、どうやって取ったの?」

「ああ、知り合いがいるんだ。あそこで役員やってる」

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IT is my friend・・・? 8

 8、宇宙旅行② 遠くに土星らしき星。減速するというアナウンス。イビツな土星がどんどん丸い形になっていく。少しGを感じる気がする。以前に来た時は土星の衛星のタイタンに着陸したんだった。美しい星だった。今回は違うようだ。白い衛星エンケラドゥスの横を通り抜け、土星の輪の氷の粒の真下を通る。光る氷の粒が美しい。頭上を氷の川が流れているような錯覚に陥る。

土星を通り越して、天王星、碧い星海王星を堪能した

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IT is my friend・・・? 9

 9、監視 翌朝、目覚めると・・・夢ではなかった。隣に綾香が寝ている。いい香りがしている。

そっとベッドを抜け出してキッチンからオレンジジュースを取ってベッドに戻ると綾香が目を覚ましてこっちを向いている。

「おはよう」

「おはよう。スッピンの方がかわいいんじゃない?」

「やだ。そうだった」

そう言って顔を隠した。

「本当だって。おれはスッピンの方が好きだな」

「本当にそう?本当にそう

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IT is my friend・・・? 10

 10、行方不明者の帰還 ボックスに乗り込んですぐに綾香を呼ぼうと思ったが、一件の着信があった。どうして転送されなかったんだろう。見覚えのない名前だ。

「はい、由莉奈。クロード?」

「ああ、そうだけど」

「覚えてる?コンビニの・・・」

「もちろん覚えてるよ。どう?元気にしてる?」

「前に話した叔父さん。帰ってきたのよ。記憶喪失だけど」

「あ!知ってる。隣町で物乞いしてたんだろ?」

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IT is my friend・・・? 11

 11、彼女はレプノイド 家に帰る前に綾香の会社に寄った。ボックスエリアには20台分の来客用スペース、自動ドアの向こうに受付がある。受付嬢より綾香の方が断然かわいい。

「すみません。雑誌の広告やってる綾香さんいるかなぁ」

おもいきりヤサ男風に言ってみた。

「少々お待ちください」

しばらく時間がかかった。

「今日はもう退社しております」

「そうなんだ。ここって冬は自動ドア開いたら寒いんじ

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IT is my friend・・・? 12

 12、叔父さんのアルバム ボックスを切り離して郊外に向かう。野菜工場がたくさんある地域だ。白いドーム型の建造物が並んでいる。そこを抜けたところに農業者用住宅がある。そのはるか向こうの山並みにそって大きな風車が並んでいる。なかなかおもしろい景色だ。このあたりは立体交差化も進んでいないため信号で何度か止まった。信号といってもボックス内にあって自動制御されている。

 由莉奈の家はかなり大きく8キュー

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IT is my friend・・・? 13

 13、会社訪問 「課長、ちょっと社会見学させてやりたいんですけどいいですか?」

「いいよ。おまえ、さすがにかわいい子連れてんな」

「よろしくお願いします」

「はい、どうぞ。しっかり見ていってね」

「はい、ありがとうございます」

「ねえ、クロード。あれなに?」

「あれは広告だよ」

「それは知ってるけどさ、内容」

「世界法が施行されたんだよ。その告知」

「ホントなの?」

「そうだ

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IT is my friend・・・? 14

14、再失踪と再会 宗治さんの家に着いた。2キューブの古い家だ。

「叔父さんはずっと独身?」

「そうよ、身内はうちだけ。ギャンブラーだからね。他人とは住まないってずっと言ってた」

「ああ、新しいハコ買ったんだ」

「そうよ。いるみたいね」

由莉奈は入口に、おれはボックスを見に行った。最新のLexusだ。

「叔父さん、開けて。いるの?」

由莉奈がやってきた。

「返事がないのよ」

「じ

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