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スティーヴン・スピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』

『ウエスト・サイド物語』の舞台脚本家アーサー・ローレンツは生前、こう話したといいます。「新たなバージョンを作るにあたって必要なのは舞台版ミュージカルを理解している人ではない。必要なのは映画の天才なんだ」


ブロードウェイ史上、映画史上に残る傑作 『ウエスト・サイド・ストーリー』がスティーヴン・スピルバーグ監督の手により現代に蘇る!

ハリウッドの”リメイク中毒”は、アメリカのレジェンドとも言える作品にまで及びました。
『ウエスト・サイド物語』がいかに画期的な映画かというと、それまでのミュージカルと言えば(例えば『巴里のアメリカ人』『雨に唄えば』など)元々が舞台から生まれたものなのでジーン・ケリーやアステア&ロジャースといった個人の芸を見せたり、内容も愉快で楽しく、ショービジネスの世界や家族愛、恋愛を描いたものが多い。
ところが  『ウエスト・サイド物語』は移民問題・貧富の差・10代の不良化問題など、扱う題材がそれまでのミュージカルとは大違い。
また、役者が必ずしもスターではなくても良いというところもポイントで、『ウエスト・サイド物語』は音楽とダンス、高層ビルが屹立するNYが主役なのです。

『ウエスト・サイド物語』の初演年と、ファーストカット「リンカーン・センターの建設予定地」の看板を見るに、舞台は恐らく1957年。
そこに住んでいた初期移民のプエルトリコ人たちが追い出され、人種の対立と貧富の対立が明確になっていきます。

ジェッツの爆進は壮快でした。特にリーダーになるマイク・ファイストのシャープなダンス能力、針金のような体躯と街角の隅々に通じた賢そうな顔つきは特筆すべきですね!主役のアンセル・エルゴートは歌唱力はあるかもしれないけど主役としての華はなく素朴な存在。バランスを取った配役のアイディアもスピルバーグらしい。 街の人々を巻き込んでいく様は『イン・ザ・ハイツ』っぽくもある。
街の子供たちも加わって圧巻のスケールで興じられる「America」は誰でもノリノリに。トニーとマリアの「Tonight」もうっとりしてしまうほどの優しい歌声でした。
スピルバーグの映画製作にかける信念に拍手を送ります。

実際のNYに行ったことはないですが、セットとCGで丁寧に再現した街並みに当時のカルチャーをしっかり描き込んでいるのが観ていて楽しかったですね。クロイスターズ美術館でのデートシーンも美しかった!ふたりでずっとここに留まってくれていたら、あんなことにはならなかったのにね......
ジェッツとシャークスがそれぞれの立場・愛を信じて絡み合う決戦の夜は映画の山場として大変良かったと思います。

作中、トニーとマリアを柵越しに映すカットが多用されていて互いの顔が見辛く、何とももどかしい気持ちになりましたね。それはまるで二人の間にある障壁を表しているようでした。
ラストシーンではトニーを抱えたマリア達を俯瞰で捉え、建造物の外階段が被って映っていましたがこの外階段の意味は何だろう。これは主観だけれど、これは”柵越しに見ているトニー”の目線ではないでしょうか?
「ここにしか居場所がない」と劇中に何度も口にしていたジェッツとシャークスの融和の兆しが少しだけ垣間見えた瞬間を見つめるトニーの魂の目線。儚く死んでしまったトニーへの弔いの演出に思えてなりません。

私は  『ウエスト・サイド物語』のリメイクではなく、スピルバーグにしかできない別の新しいものを作って欲しいと期待していました。
ここのところのスピルバーグ作品はアメリカの歴史、大統領の陰謀を題材にしていると思うんです。その流れで本作では"自分とアメリカ"に向き合って、身を捧げた作品に昇華されたのが良かった。
オリジナル・ミュージカルの誕生から65年。スピルバーグの長年の夢であった映画化の実現に意味があったと言えるでしょう。

<引用元>
https://www.oricon.co.jp/news/2219123/full/
https://en.wikipedia.org/wiki/Arthur_Laurents


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