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【中世欧州料理試作】(3)名もなき農民のスープ

このコラムでは、過去試作してご紹介した中世ヨーロッパのアレンジ料理についてちまちまご紹介します。
全部実試作つき&単純に自分の感想や所感なども書きなぐってます。基本的に全部美味しいんですけど、一部「?!!?(なんともいえない味)」ってものもありますので、そのあたりも正直に書いときます。



何気に人気な「農民のスープ」

普段試作研究している中世欧州系料理は「文字」として残っている料理指南集から取り上げることが多いんですが、”anonymous(作者/料理人名不明)"というのもポツポツあります。王族お抱えかつ著名?な料理人であれば名前など残っていることはあるんですが、いわゆる無名の料理人も数多くいたことはあながち認識しておいた方がいいかなと思います。

当時の上流階級のスープレシピをパラパラ見ていると、いかにも「お肉使ってまーす・スパイス豪華でーす・サフランどーん(以上超意訳)」というのがあるんですが、一方でドシンプルなレシピはちょっと少なめな傾向にあります。まぁ、多くの客人も来られるところだと、美味かつ食材の豊富さをあぴーるしたいというホスト側の気持ちも分からなくもないです。

以前、中世ヨーロッパ料理に関するWEBアンケートをとったところ、「庶民や農民が食していた料理を知りたい」という回答が抜きんでてトップに食い込んでいたことがあります。実際のところ、自分ももっと知りたいぐらい記録として残っているのは少ないんですよね。当時の挿絵から推測することおもあるんですが、抽象的すぎてぬおぉー!ということもしばしば(白目)。

今夏に製作したレシピ系同人誌「中世欧州アレンジ料理総集編」にあらたにその庶民系であろうスープを1品掲載しています。出所はフランスのオープンソースで掲載しているレシピなんですが、西洋ファンタジー好きな方なら大方どなたでも「コレ好き!」っていうやつです。

正式名称(だと思う)「べアルネの農民のスープ」

記録文字代わりの「口伝くでん

庶民や農民などの比較的地位の低い人々は、人から人へ口で作り方を教える口伝くでんが圧倒的に多かったと推測しています。時代や地域によりけりですが、上流階級の人ほどめっちゃグルメ♪というわけでもありませんでしたしね(たぶん)。
修道院でも同様に口伝でのレシピ継承を行ってきたところが多く、実際のところ現在まで残っている昔の修道院菓子レシピは多いです。お母さんに教えてもらったおうちのレシピと同じような的な感じでしょうかね?

この「農民スープ」ですが、正式には「べアルネのスープ」という名称がついています。ただ、これもアレンジした方が別途つけた名前になるので、当時のまま残っている名称、というわけでもないようです。

「べアルネ」は現在のフランス南西部・ベアルン地方(ピレネー・アトランティック県内)のあたりのことを指すと思われます。スペインとの国境があり、現在でも巡礼路として大きな役割を果たしています。
ベアルン地方に限らず、歴史料理的国境あるあるネタとして「複数地域の文化混在」というのが挙げられます。国境付近は異なる国の人々の出入りが多かったため、現地の文化もちょっと違う感じになることもしばしばあったようです。

食文化に関しても同様で、複数地域に伝わる料理がいろいろ合体して異なる料理レシピが出来上がる、というのはまぁまぁよくある話でもあります。本来ならば本国でほとんど使うことのない食材が、国境付近にある一部の地域だけは安易に手に入る=少し違う料理ができる、といった具合です。
べアルネのスープもおそらくその影響を一部受けているやもしれないんですが、使用している食材的には比較的どこでも手に入るものが多いように見受けられます。


作り方

キャベツや塩気のない豆、にんじん(またはパースニップなど)・塩気の強いベーコンなどの肉、かぶなどを鍋に入れてとにかくグツグツと長時間煮込みます。キャベツだけは先に下茹でしてから使っていたようですが、当時のキャベツの葉はかなり硬かったことを考えると十分ありえる下ごしらえかなと思います。

キャベツ。大昔からある野菜ですが、中世ヨーロッパなどではどでかい葉としての挿絵が残っています。日本にように柔らかい葉ではなく、かなり硬い葉であった可能性があり、長時間煮込むことが必要だったかと思われます(写真は葉のイメージに近いかも?なサボイキャベツ)。
15世紀「健康全書」に記載されているキャベツの収穫。葉っぱです(真顔)
Tacuinum Sanitatis, 15th century.

途中、塩の加減を適度にチェックしていきますが、必要に応じてお塩を加えることにしています。ただ、すでに塩漬け肉を入れている時点でそこそこ塩気はあったので、ほんの少しの微調整程度であったのかなー、と。入れすぎるとしょっぱくなりますしね。
拙著の同人誌レシピでは具体的な食材を記載していますが、おそらく当時採れた野菜ならなんでもよかったんじゃないかと思います。季節によって採れるものは違いますし、なによりも腹を満たすために必要でしたでしょうし。
そんな『素朴な味』こそ、現代の私達が求めているものなのかもしれないっすね。

試作は比較的少量で作ることが大半ですが、試食した際は一口二口でもじゅうぶんおなかが満たされるほどもったりかつボリューミーな感じでした。これにフランスパンのような少し硬いパンが一切れあれば一食分としてじゅーぶんでございます(個人差ありますが)。


「名もなき農民のスープ」の作り方は拙著同人誌『深き中世欧州の食レシピ(総集編)』に収録されておりますので、もしご興味ありましたらパラパラご覧頂ければと思います。

※通販サイトの紙同人誌取扱いは9/30(土)でいったん終了しました。電子書籍版は引き続きダウンロード頂けます。

最後までご一読頂き、有難うございました(^-^)。

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